監督室から聞こえた甲斐の“怒声” 中村晃が語った思い出…ドア越しで感じた譲れぬ信念

インタビューに応じたソフトバンク・中村晃【写真:冨田成美】
インタビューに応じたソフトバンク・中村晃【写真:冨田成美】

ホークスを去ることになった2人…甲斐はFAで巨人へ、和田は現役を引退

 皆さま、あけましておめでとうございます! 鷹フルがお送りする中村晃外野手の新春特別インタビュー。第2回のテーマは「盟友」についてです。国内FA権を行使して巨人に移籍した甲斐拓也捕手、昨シーズン限りで現役引退を決めた和田毅投手との思い出を語りました。若手時代にドア越しで聞いたのは、怒声……。絶対に譲れない信念を持っていた正捕手を心からリスペクトしていました。

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 2024年12月17日、巨人が甲斐の獲得を発表した。2010年育成6位でホークスに入団し、14年間を過ごした正捕手は、1か月以上も悩んだ末に「自分をもっと高めたい」と移籍を決断した。FA権を所有している中村晃は「拓也も一番、自分が成長できるのはどこかっていうのを考えた末に、ジャイアンツを選択したんだと思います。それは間違っていないんじゃないかなと思いますよ」と尊重した。

 発表前夜の16日。甲斐から電話がかかってきていたが、取ることができなかった。一夜明けてかけ直すと「移籍することになりました」と報告を受けた。みずほPayPayドームでは、ロッカーも隣だった。「本当に悩んでいるんだろうなって思っていましたよ。オフでもドームで会うことはありましたし、そういう話もしますしね。『どう?』って聞いたら、『悩んでいます』って言っていました」と舞台裏を明かした。

「当然、寂しいのもありますし。戦力的にも、ダメージは大きいと思います。残念なのは残念です。いなくなってわかるものが多いんじゃないですかね。当たり前になっている部分があったと思うので。楽しみでもあるなっていう部分は、若い選手が出てくるかもしれないことですね」

 ゴールデン・グラブ賞を7度受賞した甲斐。2021年の東京五輪、2023年のWBCでは世界一を経験するなど、絶対的な正捕手として君臨してきた。中村晃も「高谷さんもそうですし、歴代の先輩方も準備はされていましたけど、(拓也は)すごいなと思います。あれが基準になるので。キャッチャー、大変だなって目で見ていました」。海野隆司、谷川原健太、嶺井博希……。2025年は熾烈な競争が繰り広げられるが、周囲は甲斐を「基準」とする。とてつもない“モノサシ”を築いて、ホークスを去っていった。

 多くの後輩選手が甲斐との思い出に挙げたのは、徹底的に準備する姿だった。一方で、若手時代から知る中村晃は「めちゃくちゃ怒られている印象がすごくありますね」と懐かしそうに振り返る。103試合に出場してブレークした2017年当時は「(監督の)工藤(公康)さんもそうですし、先輩からよく叱られているのは見ていました。それをバネにして頑張っているなっていうのはいつも思っていました」と、“負けん気”の強さが伝わっていた。

「僕が若かった時は、叱られても『はい』って言うだけなので、そんなにだったと思うんですけど。拓也は反論していくので。結構“バトル”になるのを見ていました。なかなか監督室から出てこない時もありましたし、中から(言い合う声が)聞こえてきたりしました。コーチと一緒に(部屋に)入っていくところも見たことありますし。自分の信念、準備がしっかりしているから、そこまで言えるんだと思います」

インタビューに応じたソフトバンク・中村晃【写真:冨田成美】
インタビューに応じたソフトバンク・中村晃【写真:冨田成美】

 和田は、どうだろうか。昨年11月4日、シーズンを戦い終えた選手たちは福岡市内で「祝勝会」を開催し、ベテラン左腕も1人1人の仲間に現役引退を報告した。今宮健太内野手は「結構軽いノリで言われました」と明かしていたが、中村晃も「そんな感じでした。かしこまった感じではなかったです」と同調する。「ちょっと前に現役続行(の報道)が出ていたので、やるんだろうなって思っていたので、びっくりはしました」と話した。

 記憶に刻まれているのは、自身の若手時代。圧倒的な努力で地位を築いてきた和田らしい姿を、今でも思い出すという。

「和田さんは、本当に大先輩ですよね。誰よりもランニングする人って感じ。キャンプ中とか、僕が1年目、2年目で若いから遅くまで練習するんですけど。練習が終わってランニング場に行って、ちょっと暗くなるくらいの時間でも走っていたイメージですね。『まだ和田さんいるわ』って。練習量はすごいですし、ストイックな人です」

 野手からどう見られているかを常に意識し、バッターに真っ向から挑んでいった和田。中村晃も「そこはもちろん、逃げている姿勢は全くなかったと思います。攻めていく投球はいつも感じていました」と、一塁から左腕の姿を見守り続けた。印象に残っているのは、和田が投球練習を終えた時、力強く息を吐き出すところ。「気合を入れていたんだと思いますけど、そこの印象が強いです」と思い出を語った。

 11月には36歳になる中村晃。ようやく40歳が見えてきたところだが、43歳まで現役を続けた和田には「僕は40歳までやる人は人間じゃないと思っているので」と苦笑いするしかなかった。甲斐がいなくなり、正捕手争いが始まる。「若い選手からしたら、大チャンス。そこで取れるか取れないか、人生が変わると思うので。頑張ってほしいですね」と微笑んだ。2025年、キーワードに「技術」を掲げる。自分自身の信念を貫いて、また盟友たちと1軍のグラウンドで再会したい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)