中央大から2017年ドラフト1位で巨人に入団。今季はホークスと育成契約を結び、支配下復帰を目指して右腕を振った。しかし、シーズン終了後に戦力外を通告され、進むべき場所を探していた。そんな鍬原が悩み抜いた末に選択したのが、球団に提案された道だった。
「ホークスからも何かしらのセカンドキャリアをサポートするとは言ってもらっていました。僕が引退を決めて、ホークスに連絡して初めて『広報をやってもらいたい』という話をいただいた感じですね。そこからどういう仕事内容で、こういう感じでっていうのを聞いて。その後にまた2日間ぐらい悩みましたね」
鍬原が次のキャリアに選んだのが広報の仕事だ。来季からは1軍担当として活動する。10月28日に戦力外通告を受けてからも、現役続行を望んだ。「トライアウトまでは正直考えたいですっていうのを話したんですよ。トライアウトが終わってからも、ちょっと踏ん切りがつかなかったっていう感じです」。その後に現役引退を決断。球団に報告した際に、広報の仕事を打診された。
「広報がっていうわけではないんですけど。巨人から戦力外通告を受けて、ホークスに獲ってもらって。1年間だけでしたけど、ホークスに恩返ししたいっていう気持ちがずっとありました。選手として恩返しができなかった分、裏方でも球団に何か恩返しできたらなっていう考えがあったので」
以前から、「ホークスでユニホームを脱ぎたい」と語っていた右腕。球団に残りたい気持ちがある中で、舞い込んできた話を断る理由はなかった。「自分の中でホークスにまず恩返ししたいっていう気持ちが強かったんです。どんな仕事でも受けるつもりではいたので」。現役への思いを断ち切り、新たな職場でやっていくことを決めた。
鍬原の武器はコミュニケーション能力の高さだ。1年間ファームにいたが、フロントも把握していた部分だった。「人柄って言われましたね。『鍬原くんの人柄だったら広報は合うと思うから』みたいな話でした」。今シーズンをファームで過ごした鍬原の周りには、常に複数の選手がいた。練習する姿勢やアドバイスは、若手選手にとって最高のお手本になっていた。そのことは現場から球団トップへ報告されていた。
「GMも知っていましたからね。『後輩の面倒見てくれてありがとう』みたいな感じで戦力外の時に言われたんで。そんな上にまで伝わってんねやって思いました。倉野(信次投手)コーチに挨拶した時も『俺がずっと1軍やったから、悠伍(前田)とかをよく指導してくれてありがとう』みたいなことも言われたので。それだけ印象が強かったってことですかね。見られていたんでしょうね。怖っ(笑)」
経験がない仕事に就くことに不安がないわけではない。「野球しかやってこなかった僕が、いきなり広報としてちゃんとできるのかっていう不安はあります。正直、『俺できんのかな』みたいな感じです……」と、本音をこぼす。それでも「そこしか取り柄がない」と冗談混じりに話したコミュニケーション能力と、元ドラフト1位の意地と熱意を広報の仕事に置き換え、新たな道を進んでいく。