好成績の陰に甲斐との会食…「僕のそういうのも理解してくれた」
「ラストチャンスだと思って腹を括っていたので、良かったんじゃないかと思います」
今季、杉山一樹投手は松本裕樹投手と並んでチーム最多の50試合登板を果たし、4勝0敗、防御率1.61の成績を残した。これほどまでに安定した結果を残した右腕に対し、甲斐拓也捕手はリーグ優勝を決めた直後に投手陣のMVPとして名前を挙げていた。
「僕は、杉山がすごく頑張ったシーズンだったなって思います。いろんな難しい部分もあったと思うんですけど、どこかで腹を括ってやり通したシーズンだったと思うので。ものすごく安定していい投球をしてくれたと思います。杉山に助けられた部分っていうのは、僕はたくさんあると思います」。正捕手は賛辞を贈った。
巨人にFA移籍することが決まった甲斐。どの投手からも厚い信頼を寄せられるが、それは杉山にとっても同じだった。自身の投球を支えてくれたことへの感謝と、過去5年間はなかったという甲斐との会食について語った。
「僕自身は甲斐さんと今年1年すごくコミュニケーションを取れましたし、食事にも何回か誘っていただいて。過去の5年間、僕にとっては無縁だったんですけど」
6年目の今季、中継ぎに専念した杉山にとって特別な1年になった。中でも甲斐とのコミュニケーションに変化があったことが、活躍のカギを握っていたと語る。「色々サポートしてくれたりとか、野球面でもたくさんお世話になった」。これまでは一緒に食事に出かけることはなかったが、今季はその回数にも大きな違いがあった。
春季キャンプ中には、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)に「ダメならクビですからやらせてください」と中継ぎ専念を直訴した。腹を括り、覚悟を決めたシーズンであることは、甲斐も痛いほどに感じてくれていた。
だからこそ、甲斐はこれまで以上に信頼できる間柄になることで、杉山の長所をうまく引き出そうとしたのだろう。「僕のそういうのも理解してくれた上でのリードがあったのかなと思います。本当に感謝してます」と、杉山は頭を下げた。そんな甲斐が投手陣のMVPに自身を挙げたことを伝えると「え、本当ですか?」。驚いていたが、すぐに表情は緩み、うれしさを隠しきれなくなった。
「僕としては本当にめちゃくちゃ大きいですね。やっぱり甲斐さんにはキャンプ中に『僕は今年で辞めるつもりでやります』っていうのは伝えていて。配球についても僕から結構話すことも多かったので。『期待に応えられるかどうかはわからないですけど』っていう前提で話をしたりとか。今までそういう話もなかったですし、特別な1年だったなと思います」
来季からはもう甲斐はいない。リーグは違えど、対戦する場面もきっとあるだろう。「感謝を込めて3球ストレートで」。今季学んだものは必ず今後に生かしてみせる――。グラウンドで甲斐と再会した際には、成長した姿を見せてほしい。
(飯田航平 / Kohei Iida)