ソフトバンク&ヤクルトで13年間プレー…鷹フルの単独インタビュー第1弾
鷹フルは、ソフトバンクとヤクルトでプレーし、通算472試合に登板した嘉弥真新也投手の単独インタビューを行いました。全3回を3日連続で公開いたします。第1弾のテーマは「現役引退」について。ユニホームを脱ぐと決めた決定的なきっかけ……。数々の電話に家族の支え、プロ人生で流した涙など、さまざまな視点から13年間を振り返っていきます。愛妻に漏らした“弱音”とは――。
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2023年オフにホークスから戦力外通告を受け、ヤクルトに移籍した。今季は9試合登板にとどまり、9月30日に戦力外通告を受けたことが発表された。自身のインスタグラムで現役引退を表明したのが、11月16日。ユニホームを脱ぐまで、どんな気持ちのうつろいがあって、決断に至ったのか。
「1番は獲ってもらえるチームがなかったこと。あとは待っている時間で『もういいかな』って。ただそれだけです。最初はトライアウト前に発表しようかと思ったんですけど、いろんな人に電話したら、『トライアウトが終わって、何日か待ってみろよ』って。そこまで待って、『よし、もう終わろう』って。そんな感じです」
福岡に家族を残し、今季は単身で東京に向かった。11月14日に12球団合同トライアウトが行われ、連絡も待ってみた。さまざまな人がNPBで現役を続けられるように動いてくれた。「その辺も協力してもらったし、ダメだったらいいかなと思えました」。戦力外通告を受けてから1か月以上。オファーを待ち続けることも、気持ち的に「しんどかったんです」と明かす。最後は潔く、決めた。
「基本的にこうなっていた(引退に気持ちが傾いていた)ので。辞めるか、って。嫌だなって気持ちもなかったし『よし、お世話になった人に電話しよう』って。その時は東京の自宅にいたんですけど、奥さんとは連絡を取り合っていたので。奥さんにも『もう辞めていい!?』っていうのは言っていました」
肩、肘、腰……。痛いところは今も一切なく「元気ですよ!」と胸を張る。一方で、現役引退を決めたのも「元気だから、です。もし、このまま獲ってもらえたとして、1軍でパフォーマンスを出せるかと言ったらわからない。それも1つの理由かもしれないです。違うチームで獲ってもらえて、また同じ結果だったらこっちも嫌ですし、迷惑をかけたくないなとも思いました」。今季はヤクルトで9試合登板に終わった。自分自身が不甲斐なさを抱くだけではなく、チームに好影響を与えられないことだけは、嫌だった。
今季は特に、支えを感じたシーズンだった。福岡に家族を残したまま、東京で単身での生活。「食事の面が大変だったんですよね」。都内のマンションで一人暮らし。愛妻は「ご飯を作って、冷凍して、送ってくれていました。僕はご飯を炊いて、チンして食べていました。本当に感謝ですね。僕も頑張って作るんですけど『偏るでしょ』って。段ボールを送ってくれて、届いたらそれを冷凍庫に入れて、みたいな」と、野球に集中できるように、九州から自分をサポートしてもらった。
引退を決めた瞬間も、都内のマンションにいた。愛妻には電話で報告した。「落ち込んでいるわけでもなくて、次頑張ろうって。そういう感じでした。子どもたちも、落ち込んでいる感じではなくて、意外と楽しそうというか『また次頑張ればいいでしょ!』って感じでした」。久しぶりの一人暮らしで、シーズン中も帰宅しても話す相手がいない。「それは結構Netflixに助けられました」と笑うが、息子たちとも一緒に「テレビ電話もしたりしていた」という時間が、少しでも前を向かせてくれた。
涙から始まったプロ人生だった。沖縄・石垣市の出身。八重山農林高、ビッグ開発ベースボールクラブ、JX-ENEOSを経てホークス入りを果たしたが、2011年12月10日に行われた入団会見では大粒の涙を流した。「うっすら覚えています。僕結構涙もろいので」。憧れだったプロのユニホームを自力で掴んだ。「(離島出身であることは)絶対にハンデですから。いろんな人にお世話になったので、それで思い出して泣いたんだと思います。僕1人では無理だったので。本当に運と縁でここまできました」。多くの顔が脳裏に浮かんだ。
プロ生活は13年。通算で472試合に登板し14勝7敗、137ホールドを記録した。全てが終わり、どんな野球人生だったと振り返るのか。
「いい経験ができたし、いろんな人に出会いました。13年って結構長いと思うじゃないですか。短いです。一瞬でした。楽しかった記憶がありますけど。打たれたことの方が多かった。優勝した瞬間くらいしか覚えていないです。あとは打たれた、悪い方の記憶の方が多いですね。13年、自分1人では無理だった。関わってくれた人には感謝の気持ちです。ファンの皆さんもたくさん応援してくれてありがとうございます」
苦笑いだったことも、嘉弥真らしいのかもしれない。鉄壁だったリリーフの一角として、何度も優勝に貢献した。マイペースで、飾らない。ファンにもチームメートにも愛された男が、ユニホームを脱いだ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)