2022年ドラフト6位の吉田と、育成13位で入団した西尾。アマチュアでのキャリアで接点はなかったが、ホークスでチームメートとなり、同学年の2人はすぐに打ち解けた。「吉田くんは“かまってちゃん”です(笑)。相当ですね、あれは。ナンバーワンくらいです」。どちらかが遠征先に行けば、「寂しいです」と笑う。ファームで多くの時間をともにして、関係性は深くなっていった。
現役ドラフト当日。結果が発表されたのは午後6時ごろだったが、その少し前に吉田から西尾に電話がかかってきた。「『球団から電話かかってきた……。何かな?』って相談されました。『今日現役ドラフトやから、それじゃない?』って。僕もまさか賢吾やとは思いませんでした」。移籍がチャンスになるとわかっていても、あまりにも急に訪れた別れに、驚きを隠せなかった。
昨オフの現役ドラフトでは、水谷瞬外野手が日本ハムに指名された。「被ったのは1年だけでしたけど、同級生ですし、ご飯を食べたこともありました。仲は良かったと思います」と西尾。たった一日で新天地が決まるというプロ野球選手ならではの出来事を、2年連続で“身近”で経験した。「悲しいです。でもジェシー(水谷)が活躍しているのを見たら、自分も頑張ろうって思います」と背筋を伸ばした。
同学年との別れは、現役ドラフトだけではない。今年7月には、野村大樹内野手が西武にトレードで移籍した。当時、西尾は3軍遠征で福岡から離れていた。「最後に会うこともなくて、挨拶もできなかったです」。ユニホームが変わり、かつての同僚は57試合に出場して5本塁打を記録した。「大樹も向こうで結構ゲームに出ていたじゃないですか。やっぱりすごいなと思いました」と、チャンスを掴もうと必死にアピールする姿を見守っていた。
“親友”と表現する吉田がいなくなってしまう。西尾も「あいつの“ダル絡み”がなくなるんかと思ったらやっぱり寂しいですね」と笑いながら別れを惜しんだ。「上の人とも仲良いじゃないですか。直樹(佐藤)さんとか、周東(佑京)さんとか。賢吾も『向こうに行ってまた親交を深めるのはしんどいな』って言っていました。『まだ心の整理もついていないし、せっかくみんなと仲良くなったのに、それは寂しい』って」。電話越しの声色から、複雑な気持ちが伝わってきた。
7日、知人の結婚式があった。吉田と西尾、野村、水谷らも出席した。式が終わると、野村とともに吉田の自宅に泊めてもらったという。「人のベッドで寝るのは、自分はあれやったのでソファで寝たんですけど。大樹と賢吾は、一緒にベッドで寝ていました(笑)。『ニッシーも一緒に寝ようや』って言われました」。吉田自身も「マジで最悪でしたよ」と苦笑いしたが、男3人で「覚えていない」ほど他愛もない話で盛り上がった。
住み始めて「20日経っていないくらい」で、日本ハムへの移籍が決まった。吉田の自宅の貴重な“目撃者”となった西尾は「まだ冷蔵庫とかなかったですね。ウォーターサーバーもあるんですけど、まだボトルがなくて空でしたし、テレビも箱に入った状態でした」と笑いながら代弁した。段ボールはさほど多くはなく部屋も綺麗だったそうだが、引っ越しをしたばかりで落ち着かない様子は伝わってきた。
派手な思い出があるわけではない。何度も食事に行き、より上のステージを目指してきた日常こそ心に刻まれている。吉田が「仕方ないですけどね。頑張るしかないですから」と意気込めば、西尾も「昨日まで一緒(チームメート)やったのに……。寂しいですけど、あいつにとってはチャンスですもんね。“ダル絡み”がなくなって、僕も野球に打ち込めそうです」と笑顔を作った。必ず1軍のグラウンドで再会できるように、充実のオフシーズンを過ごす。