真意ではない言葉が世の中を駆け回ったことを悔やんだ。ソフトバンクのリチャード内野手が1回目の契約更改交渉に臨んだ11月22日。70分にも及ぶ交渉は平行線を辿り、結果的には“保留”することになった。その際に自らの発言の一部が、違う認識で捉えられてしまった。
「ホークスでプレーしたいですよ」。多くの葛藤を抱きながら、絞り出した言葉に偽りはない。自身の気持ちをうまく口にすることができなかっただけだった。2度目の契約更改交渉が行われた12月6日には「全力でやる覚悟ができました」と、球団との話し合いに納得したうえで印鑑を押したが、それまでの約2週間に抱いた気持ちは複雑なものだった。
1度目の契約更改交渉後には“移籍志願”という言葉が一人歩きした。リチャードが本当に伝えたかったのはどのようなことなのか。その真意と、球団へ伝えた思いを、2度目の契約更改に臨む前に明かしていた。
「勘違いしてほしくないのは、チームが嫌いだからとかじゃなくて、本当にホークスが好きだということです。フロントの人も好きだし、チームメートも好きだし……。僕はソフトバンクっていうチームのファンなんです。ただプロ野球選手として考えた時に……という話をしたんです」
野球選手である以上、求められるのは結果。だれもが羨む能力を持っているからこそ、球団もその才能を開花させるために必死だ。その思いはリチャード自身ももちろん感じている。報道陣には、自身を俯瞰して見たときに感じた気持ちを素直に伝えただけだった。
「本当に『マジで出たい。もう出してくれよ』とは全く思っていないです。『出た方がいいですよね? 客観的に見ると僕って出た方がいいかもしれないですよね?』くらいの感じで伝えたんです」
思っていることをしっかりと伝えられなかったことを反省もした。一方で、発言の一部を切り取られたように報じられたことも悲しかった。「色々な人に喧嘩を売ってるみたいな感じになってしまいますよね……。NPBに対してもそうだし、ホークスに対してもそう。本当にそんなつもりはないんです」。1つの発言が自身以外にも影響を与えてしまうことは理解している。
それでもリチャードが伝えたかったのは、プロ野球選手としてのキャリアを考えた上での話だった。7年目を終えた今季も納得する成績を収めることができなかった。このままでは終わってしまう――。その危機感と、球団への思いを上手く整理することができず、平行線をたどってしまった。
「ホークスでプレーしたいですよ。もちろんホークスがいいに決まっています。そう思うんですけど、ホークスは常勝軍団だし勝たないといけない。客観的に自分を見た時に『僕を使うか』って考えると、今年みたいな感じになると自分でも思うんです」
リチャードが勝負しなくてはいけない相手は球界屈指の実力者だ。一塁には今シーズン本塁打と打点の2冠に輝いた山川穂高内野手、そして三塁にはゴールデン・グラブ賞とベストナインに輝いた栗原陵矢内野手がいる。その壁は間違いなく高い。
“ファン”でもあり、大好きな球団。それでも、今後の野球人生を考えるとそこに葛藤が生まれるのは当然のことだ。球団に思いを伝える時には、リチャードにも大きな覚悟があったに違いない。その思いが来季は結果として見られるのではないかと期待せずにはいられない。