元ソフトバンクの早真之介氏が地元滋賀の県警試験に合格した
昨年ソフトバンクから戦力外通告を受け、現役を引退した早真之介氏が、地元滋賀県警の採用試験に合格したことを明らかにした。21歳で現役引退し、22歳でプロ野球から異例の転身。「1年間すごく不安で、合格した時はものすごく嬉しかったですね」。試験挑戦を公表した時は厳しい声もあった。ただ、それすらも自らのモチベーションに変えた。
合格発表日だった5日。発表の午前9時から5時間前の午前4時に起きた。試験は高校入学時以来。「ほとんど初めての経験だったので『こんな緊張するのか』って感じでした」。自らの番号を見つけると、安堵と解放感、そして直後から警官になる使命感が湧き出てきた。
京都国際高から2020年育成ドラフト4位指名を受けてソフトバンクへ入団。現役時代は走攻守揃った選手として期待されたが、プロの高い壁にもぶつかり、2023年オフに戦力外通告を受けた。トライアウトでは同僚だった高橋純平投手(現球団職員)から死球を受け肉離れで途中交代するなど不運もあり、NPBから声はかからず。現役引退を決断し、地元・滋賀で警官を目指した。
元DeNAの大田阿斗里氏ら過去にも例はあったが、異色の挑戦。「挑戦するニュースが出て試験落ちたとは言えないですから」。自らを追い込むために敢えて公表した。SNSでは応援する声がほとんどを占めたが、一方で「警察舐めてんのか」「野球だけしかしてこなかった奴がなれるわけない」。誹謗中傷に近いコメントも寄せられたが、目を背けることはしなかった。
「確かに1年前は憧れとかだけで『警察になる』と言っていた。なので、なれるわけないと思う気持ちもわかりましたし、公表したので仕方ないなと。それでも一度決めたので絶対に合格したいと思ってました」
1年間の“浪人”生活。平日はスポーツジムでアルバイトをしつつ、4~6時間の勉強に励んだ。体力試験もあるため、毎日の運動も欠かさなかった。試験の直前には母校が夏の甲子園初優勝。「これは自分も『(運が)来てるな』って(笑)」。後輩の活躍をモチベーションにした。
予備校などには通わず、独学で参考書で勉強に励んだ。警官になった地元の友人の支えや、ソフトバンクファンの警官とも出会い、勉強を教わるなど、周囲のサポートにも恵まれた。ソフトバンク時代のチームメートに合格を報告すると、喜んでくれた。師と仰ぐ中村晃外野手からも「おめでとう」と連絡が来たという。
ソフトバンクでは目指していた支配下、1軍の舞台は叶わず、3年間のプロ生活だった。それでもその経験は生きている。早氏の実家の冷蔵庫には入団時に渡されたソフトバンクの選手としてあるべき姿が記された手帳が貼られている。そこの第9条には「結果が全て」と書いてあるという。「今もこの言葉を大事にしているんです」。元プロの肩書きは社会に出れば関係ない。結果が全てと自分に言い聞かせて合格を勝ち取った。
来年4月から警察学校に入学する。「僕が辛い時とかにたくさんの人が支えてくれてここまで立ち上がることができました。次は僕がその力になって困っている人に寄り添ったり、不安や悲しみを和らげたりできるような存在になりたいですね」。支えてもらって人たちへの恩返しを――。理想の警官を目指し、結果にこだわっていく。
(川村虎大 / Kodai Kawamura)