例年はファンフェスティバルなど、多くのイベントのキービジュアルに抜てきされてきた板東湧梧投手。しかし、今年は事情が違った。「もう、しゃしゃれないんで。とにかく大人しくしたいなっていう。正直、出たくなかったです……僕は」。24日に行われた「ファンフェスティバル2024」に参加した右腕だが、その表情はどこか晴れなかった。
今季の板東は苦しんだ。ルーキーイヤー以来の1軍登板なしに終わり、2軍暮らしが続いた。ウエスタン・リーグでも14試合に登板して3勝2敗、防御率3.88と思うような力を発揮できなかった。どんなに結果が出なくても真っすぐに自分と向き合い、ひたむきに練習を続けてきたが、不完全燃焼のままシーズンを終えた。
自身の立場を考えると、年に1度のファンフェスティバルとはいえ、フラットな気持ちで臨むことは難しかった。「そりゃそうっすよね。やっぱり1年間やってないと気持ちよく行けない場所ですし」。根強い人気を誇り、ファンサービスにも熱心な板東は「ファンの方は多分、嫌な顔をしないというか、喜んでくれるのかなと思うところもあるんですけど」。右腕が明かしたのは複雑な心境だった。
「できる限りファンの方の気持ちに応えたいとは思いますけど。単純に今年1年、チームに貢献できなかった自分の不甲斐なさがやっぱり……。素直にああいう場へ気持ちよく行けない一番のところ。申し訳ないんですけど、いろんな気持ちがあります」。
プロ野球選手にとって、本職で活躍することが1番のファンサービス。それが叶わなかった今季の悔しさが、より一層滲んでいた。
そんな思いもあるが、板東はすでに前を向いている。「もう、そのモヤモヤが晴れた感じはあります」とうなずく。「本当に最近、秋のキャンプが始まったくらいから、やっと感覚が良くなってきて。この方向でいいんだって思い始めたんです。肺炎にかかったりとか色々ありましたけど、でも感覚はいいので。ずっと明るくはいられています」。そう語る表情はスッキリとしていた。
シーズン終了後、知人から紹介されたトレーナーとの取り組みが好転のきっかけだった。「感覚も良くなってきているので、それを続けていきたい。機能的な体が作れているのかなと思います。今シーズン苦しかったのも、いい方向に向かうための積み重ねだったと思うんです。今回、進むべき道が見えてきたのが1番大きいので、その方向に1歩ずつ進んでいくだけかなっていう感じです」。
体調不良明けで、最近まではリハビリ組で練習をしていたが、キャッチボール相手を務めたスタッフからも「いいね、いいね」との声が飛んでいた。「いいですね。(ボールは)強くなっているので。それで試行錯誤しながら、ちょっとずつ進んでいるかな」。手応えを口にする表情は明るかった。単独で行う年内の自主トレで、今の手応えを確かなものにするべく、オフも挑戦は続く。苦しんだ1年だったが、気持ちも感覚も間違いなく“前進”している。