栗原陵矢の単独インタビュー…3月&4月は打率.213と絶不調
ソフトバンクは「SMBC日本シリーズ2024」でDeNAに2勝4敗と敗れ、日本一を逃しました。頂点に立つことはできませんでしたが、4年ぶりにリーグ優勝をつかみ取った2024年。鷹フルでは、栗原陵矢内野手の単独インタビューを3日連続でお送りします。第1回で激白したのは絶不調だった春先の苦悩です。自室からも「出たくない」という日々で、周東佑京内野手や甲斐拓也捕手からも心配されていました。全てが終わったからこそ明かせる苦しみとは――。
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10年目の今季は140試合に出場して打率.273をマーク。3年ぶりに20本塁打をクリアし、87打点はキャリアハイの数字となった。存在感を示した1年となったが、「毎日いろんなことを考えながら。打ったことよりも、凡退した打席をどうしようかっていうことが多かったので。それが一番です」と、満足はしていない。戦いを振り返り、出てきた率直な思いは「感情の浮き沈み」だった。
「いろんな感情になった1年でした。ここまで上がったり下がったりというのは(過去にも)なかったかなと思います。苦しんだ気持ちがデカかったですし、今までそんなに落ち込むこともなかったです。上手くいき出してからもいろんなことを試行錯誤して、最後までいったかなって感じで。『これ』っていうものが見つからなかった1年でした」
4月終了時点で47試合に出場し、打率.213、0本塁打、11打点。最も苦しかったのが、この時期だった。明るいキャラクターでチームを支える栗原だが、落ち込んだ時は「黙りますね。しゃべらんくなりますし、遠征先でも部屋から出なくなります」という。トレードマークでもあるニコニコの笑顔が、自然と消えていた。ビジター時のチーム宿舎でも「食事会場にも行かずに、自分で何かを買って部屋で食べて……。あんまり人と会話したり、顔を合わせたりすることもなかったです」と、今だから苦笑いで明かせる。
そんな時こそ、周東佑京内野手や甲斐拓也捕手が手を引っ張って連れ出してくれそうだが「そこにもあんまりしゃべらないでいようっていう雰囲気を自分で出してしまっていました」。心を許せるチームメートにさえ、頼ることはできなかった。それほどまでに自分だけの“殻”に閉じこもってしまっていた。
春先の栗原の姿に、周東は「気まずかったです」と即答する。自身は4月を終えて打率.319と好スタートを切っていた。「僕は調子が良かったので、気を遣っていました。僕が言うのも変というか。逆の立場で、クリがめちゃくちゃ打っていて、僕が全然打っていなかったら嫌だし。いろいろ考えながら、そんなには言えなかったです」と明かした。相手をリスペクトするからこそ、かける言葉が見つからずにいた。
2021年のオープン戦では栗原が打率.186、周東は同.133で終えた。2020年の日本一に貢献した2人が春先からつまづいた。「2021年はオープン戦から良くなかった時もありましたけど、それよりも今年のクリはやばそうというか、考え込んでいました」。当時と比較した周東は、見たことがないほど苦しんでいた栗原の姿を振り返る。「それくらいひどかった。あれがちょっとひどいくらいの感じだったら『大丈夫だよ』とか言えるんですけど、あの状況でそう言っても『大丈夫じゃねえよ』って本人は思うから」と続けた。
甲斐も周東の言葉に同調する。「本当に苦しんでいたんじゃないですか。僕の部屋に来て2人で話をしましたけど、しんどそうでしたね」。ともに日本一も世界一も経験し、これまでに何度も試練を乗り越えてきた。だからこそ、栗原の苦悩は「野球をやっている人間にしか、この重圧はわからないと思う。その中で戦って、うまくいくためにやっているわけですから。結果がついてこないというのは、すごくもどかしい気持ちだったと思います。それくらいしんどかったように見えました」。とにかく痛いほどに気持ちは伝わってきた。
その後に復調した栗原は、5月に打率.373をマークし、月間MVPを受賞した。5月1日の楽天戦(みずほPayPayドーム)に代打で登場すると、二ゴロに終わった。翌日に打撃練習をしていた時、「クリ、わかったわ」と近藤健介外野手から声をかけられた。指摘された課題を修正してみると、一気に上昇気流を描いた。今季が10年目。自分を追い込んでしまったのは、チームを背負おうとする覚悟の表れでもあった。
「やっぱり立場が違います。2020年や2021年は自分の結果だけでよかった。やることをやって、思い切ってやって。失敗しても『先輩たち、カバーしてください!』って感じでしたけど、なかなか(今年は)そういうわけにはいかない。立場が変わって、いろいろと自分の気持ちも変化したのかなと思います」
少しずつシーズンが進む中で、「あの時は気まずかった」という話を周東が伝えたという。「言いました言いました言いました。『お前、腫れ物扱いやぞ。周りからしたら』みたいな話はしました。シーズンが終わって、あの成績だから言えたのかなとは思いますけどね」。選手会長らしい痛烈なツッコミも、2人の間柄だから成り立つ。ニコニコした笑顔を、お互いに少しずつ取り戻していった。
(竹村岳 / Gaku Takemura)