「僕が負けるわけがない」有言実行のモイネロ…カッコよすぎた前日コメントの舞台裏

ソフトバンクのリバン・モイネロ【写真:小林靖】
ソフトバンクのリバン・モイネロ【写真:小林靖】

26日の初戦に勝利した後…午後10時37分に球団から届いた「登板前コメント」

「僕が負けるわけがない」。カッコよすぎるコメントは、どのようにして生まれたのか。舞台裏に迫った。

「SMBC日本シリーズ2024」の第2戦が27日、横浜スタジアムで行われ、ソフトバンクが6-3でDeNAに勝利した。先発したのは、リバン・モイネロ投手。6回2/3を3失点でまとめて白星を掴んだ。「先発としてマウンドに上って、チームの勝ちにつながる最低限の仕事はできた」。対戦成績を2勝0敗とし、チームにも勢いを与える勝利となった。

 26日の初戦は先発の有原航平投手が7回無失点の好投に加え、バットでも先制の2点適時打を放つ大活躍を見せ、白星をつかんだ。試合終了から約20分後の午後10時37分、球団広報を通じて、翌日の第2戦に登板するモイネロの「登板前コメント」が配信された。

「今は日本シリーズという舞台に特別な感情はない。CSの時と同じく短期決戦で負けられない戦いが続いていくが、僕で負けるわけにはいかないし、僕が負けるわけがないという気持ちでいる。そのくらい自信を持って準備ができている。どんな状況でも仲間を信じているし、みんな自分がやるべきことをやるだけだと思っている」

「ベイスターズは打撃がいいチームだが、その中でも牧選手が印象に残っているので、勢いに乗らせないようにしたい。セ・リーグルールで打席にも立つが、左打席ならヒット、右打席ならホームランを打てるようにしっかりとボールを見極めることがポイントになってくると思う。そのくらいアリハラサン(有原航平)のようにバッティングでもチームに貢献していきたい」

「バッティングタノシミダネHaHaHa。一番は自分のピッチングをして、勝ちに導けるように頑張っていきたいね」

 モイネロらしい、サービス満点のコメントだった。大事な初戦を制した直後だっただけに、ファンからも「頼もしい大好き」「最高。安心感に加えて癒しさえ与えてくれる」「これもうエースだろ」と絶賛の声が相次いだ。チームの士気を上げる言葉だったことは間違いない。その舞台裏を、西田哲朗広報が明かした。なぜ「HaHaHa」という言葉まで、コメントに含まれていたのか。

 まず、ペナントレースとポストシーズンでは、予告先発が発表されるタイミングが異なる。レギュラーシーズンでは予告先発投手が前日の試合前に発表される。広報を通じて囲み取材もセッティングされ、自身の登板に向けた意気込みを語るのが通例だ。一方で、CSや日本シリーズでは、予告先発投手が前日の試合後に発表されるため、取材に応じるタイミングがない。

 規則に従い、モイネロのコメントは1戦目が終了後に球団を通じて配信される形となった。実際に“取材”をしたのは西田広報。「日本シリーズという舞台で、囲み取材もできない状況でした。自分が記者の気持ちになって、質問をいつもより分厚く投げかけて、コメントをもらいました」と舞台裏を明かした。

 西田広報は、2度にわたって左腕からコメントをもらった。1度目は1戦目の試合前練習が終わった後。そして1戦目の結果も踏まえて、ゲームセット後に“追加取材”を行った。「モイネロはバッティングも好きじゃないですか。有原投手がタイムリーを打ちましたし、そういうところもポイントになるかなと思って質問をしました。(セ・リーグの主催試合は)DHがないですから、『そこも楽しみ』というふうに言っていました」。普段なら見られない投手の打席にも注目が集まる。そこを踏まえた質問だった。「ホームランを打てるように」と話したのも、もちろん真面目な意気込みだ。

 当然ではあるが、モイネロは西田広報に対して「僕が負けるわけがない」と発言した。「『それくらい自信を持っている』とも言っていたので、そこはインパクト強めで扱ってもらえるように」。大舞台でも自然体だった左腕だが、みなぎる気迫はヒシヒシと伝わってきた。「相手もいることですから。『そのための準備はできているんやね』という話にも繋げました。相手を尊敬しているという話もしながら、僕が『こういう感じかな』と思いながら。最終的にモイネロにも確認をして、OKをもらいました」と続けて明かした。

「HaHaHa」という一見ユニークな言葉にも、西田広報の工夫があった。陽気でチームメートから愛されるモイネロのキャラクター。普段の囲み取材でも、気の利いた応答で報道陣を笑わせることが多い。「スパニッシュ(スペイン語圏)の選手って、結構そういう表現をするんですよ。文字にしたら固く見えますけど、普段の囲みやったら人対人で笑いながら話す部分もあるじゃないですか。そういう部分まで表現したかったんです」と言う。大舞台での登板前日、緊張しながらも笑顔を忘れないモイネロらしさが談話に込められていた。

 力強いコメントの通り、7回途中までマウンドに立ち続け、試合を作った。本人も「良い投球ができた」と振り返る。「日本シリーズという注目の高い場所ですし、今のモイネロの気持ちを素直に伝えてあげたかった。少しでも盛り上がってくれたら」と話していた西田広報の思いにも応える好投となった。先発に転向した今季は11勝を挙げ、防御率1.88でタイトルも獲得した。やはり、モイネロが負けるわけがなかった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)