試合を分けた“川瀬晃のトス”…小久保監督も今宮も絶賛 美技の裏にあった「信頼」

ソフトバンク・川瀬晃(左)と今宮健太【写真:冨田成美】
ソフトバンク・川瀬晃(左)と今宮健太【写真:冨田成美】

選択したのは“右手でトス”…「グラブトスを練習したことない」

 シリーズの流れを左右するほどの大きなプレーだった。ソフトバンクは16日、「2024 パーソル クライマックスシリーズ パ」ファイナルステージの初戦を5-2で勝利した。4回に今宮健太内野手、5回に栗原陵矢内野手、8回には山川穂高内野手が、それぞれソロ本塁打を放ち、一発攻勢で日本ハムを打ち負かした試合。それでも、この試合で流れを手繰り寄せたのは、同点に追いつかれた3回に飛び出した川瀬晃内野手のプレーだった。

 1点リードで迎えた3回。1死二、三塁で矢澤が放った打球は、三塁を守る栗原の前に転がる適時内野安打となった。打ち取ったかにも思えるような当たりだっただけに、嫌な雰囲気が立ち込める。なおも1死一、三塁で松本剛が放った打球はセンターに抜けるかと思われたが、そこに飛びついたのが二塁を守る川瀬だった。捕球するとすぐに二塁のベースカバーに入った今宮へとトスを送り、ダブルプレーを完成。逆転のピンチを、文字通りの“ビッグプレー”で凌いでみせた。

 松本剛の打球が抜けていれば、逆転されたうえに3番清宮、4番レイエスを迎えていた。さらなる追加点も覚悟しなければならない展開になっていたはずだ。「今日はなんといっても川瀬晃じゃないですかね。あのイニング、あのゲッツー。あそこで逆転されていたら、すんなり追加点を奪えなかった展開になっていたかもしれないので。今日は川瀬に尽きると思います」。小久保裕紀監督は3本の本塁打やエースの好投以上に、川瀬の守備を讃えていた。横っ飛びで捕球したプレー。あまりにも必死だった川瀬は今宮を“見ていなかった”という。そこに2人の信頼が表れていた。

「とっさの判断だったので。難しい体勢で、正直あまり今宮さんを見ていなくて。大体この辺だろうな、でトスしたので。あれはもう(アウトを)1個取るんじゃなくて、ゲッツーを取りに行ったプレー。本当に捕って、『今宮さんお願いします』みたいな感覚でトスしましたね」

 勝負を分ける一瞬の出来事。外野に抜けることを阻止するだけでも賞賛されるような打球だった。ダイビングキャッチした場所は二塁ベースのほぼ後ろ。トスを送った今宮の姿はその視界には入っていなかったが、感覚だけを信じてボールを託した。

 今宮もこのプレーを絶賛した。「晃に関しては、練習の中でしっかりと100%でやっていると思います。数多く練習をこなす中で、ゲームでああいうふうに出てくると思うので。本当にすごいプレー。日頃の成果なのかなと思います」。さらに続けて「大きかったですね。あそこがゲッツーじゃなければ1点入っていましたし、抜けていたらって考えればまた違う展開になっていたと思うので。あれはやっぱり、すごくでかいプレーだったなと思います」と説明した。

 川瀬の堅実さも、詰まっていた。内野手の“華”ともいえるグラブトスではなく、右手に握り替えてトスをした。時間のロスはあるものの、「グラブトスを練習したことがないので、そういったプレーはできないです。とっさにああいう形になりました」。練習でやっている以上のことは、試合ではできない。それを知っているからこそ、右手でのトスを選択した。信じた今宮が、そこにいてくれた。川瀬らしく基本に忠実なプレーだった。

「本当に見えていなかったので、あとは今宮さんお願いしますっていう形でしたね」。川瀬からのトスを受け取った今宮も1回転して一塁へ送球。2人のコンビネーションで、この試合最大のピンチを乗り越えた。

 川瀬にとって今宮は、オフの自主トレを共にしたこともある師匠のような存在だ。一方で、昨オフの契約更改では「来年にかける思いは人一倍強いです。その中でライバル同士で一緒にやるのは違うと思いました」と、今宮に挑むことを公言した。常に意識してきた存在だからこそ、2人で“美しい”ゲッツーを完成させたことに意味がある。CS初戦の大一番で、師匠と立ったヒーローインタビュー。「二遊間も組めましたし、ヒーローインタビューも一緒にできました。本当に感無量です。言葉では表せないものがありますね」と、噛み締めるように振り返った。

「そういったプレーをこういう舞台で出せたことは、自分の中でも自信になりますし、次につながるプレーだなと思います」。リーグ優勝のアドバンテージを含めて2勝0敗と、価値ある初戦を手にした。ファイナルステージを終えた時、このプレーがシリーズの勝敗を左右したと賞賛されるかもしれない。

(飯田航平 / Kohei Iida)