なぜ正木が“ウイニングボール”を…「捨てようと思った」 待ったをかけた津森の一声

ウイニングボールのやり取りをするナインたち【写真:竹村岳】
ウイニングボールのやり取りをするナインたち【写真:竹村岳】

柳町の捕球で試合終了…大津にボールが渡るまでに起きていたこと

 捨てられそうになっていた記念のボールが、勝利投手の手に渡った。ソフトバンクは4日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)に1-0で勝利した。レギュラーシーズン最終戦の先発を託された大津亮介投手は、6回を投げて1安打無失点の快投を見せ、約3か月ぶりの白星となる7勝目を手にした。試合後に大津はウイニングボールを手にしたが、兄貴分の「心遣い」がなければ、誰にも気付かれることなく“ただのボール”になりかねない状況でもあった。

 1点リードの9回、抑えとしてマウンドに上がったのはダーウィンゾン・ヘルナンデス投手だった。2死二塁で藤原が左飛。ボールは左翼・柳町達外野手のグラブに収まったが、試合後にウイニングをボールを手にしていたのはなぜか正木智也外野手だった。どういう経緯で大津に渡ることになったのだろうか。正木に尋ねると、「処理が面倒くさいからです」と衝撃の返答――。そこにはまさかの出来事があった。

「(正木が持っている)ボールが見えたので。大津が久々の勝利だったから、『ちょっと大津にあげて』って。みんなで『正木ー』って」

 こう語ったのは津森宥紀投手だ。7回に2番手として登板し、1イニングを無失点に抑えていた。「大津の久々の勝ちっていうのもあったんですけど、しっかりゼロに抑えようと思って投げていたので。よかったです」と、大津の勝ち星を守り抜き、満足気な表情を浮かべた。そんな津森が正木に声をかけたことで、大津の元にウイニングボールが渡ることになったという。

 ではなぜ、柳町が捕球したボールを正木が持っていたのか。その理由を正木はこう明かす。「(柳町が)僕に渡してきたので。(たぶん)処理が面倒くさいからです(笑)」。慶大の先輩はウイニングボールであることを気にも止めず、試合球を後輩の正木に託す事態が起きていた。悪気があったわけではない。

「まず何のボールか分からなかったです。捨てようとしてたら、『あ、これウイニングボールか』って思って」。文字通り“ただボールを持っていただけ”の正木に津森が声をかけたことで、ようやく大事な1球だったことを理解したという。「あ、すみません。これウイニングボールでした(笑)」。捨てられそうになっていたボールは、無事に大津の手に渡った。

 受け取った大津も「ウイニングボールを正木が持ってて、そしたらツモ(津森)さんから『7勝目だからもらえよ』って言われてもらいました」と、久しぶりの勝利を喜んだ。津森とはルーキーイヤーだった昨年から仲が良く、プライベートでも親交が深い。そんな先輩からの心遣いもうれしかった。

 今年からチームメートとなった長谷川威展投手も、2人との仲を深め、“津森組”と言われるほどになった。左腕は津森の後を受け、8回に3番手で登板。打者1人を打ち取り、3人による無失点リレーが最終戦の白星に結びついた。

「津森組のリレー? そんなのどうでもよかったです! とにかく抑えてくれ、としか思っていなかったです(笑)」。大津は3人の継投だったことを気にしていなかったと笑い飛ばしたが、兄貴分の津森は「久々にみんな投げられたし、よかったです」とニッコリ。形に残しておきたかったのだろう。

 大津が持ち帰ったボールは、小久保裕紀監督が歴代新人監督勝利数を更新した大事な一球でもある。捨てられそうになっていたが、津森の“ファインプレー”によって救われた。色々な意味でも思い出に残るボール……。この先も大切にしていてほしい。

(飯田航平 / Kohei Iida)