高校では応援席で眺めた「日本一」 長谷川威展が移籍1年目で味わったV「なり上がれたかな」

ソフトバンク・長谷川威展【写真:栗木一考】
ソフトバンク・長谷川威展【写真:栗木一考】

7年越しの悲願…支えになったライバルの存在

 ホークスの4年ぶりリーグ優勝の裏には、選手ひとりひとりの様々な思いがありました。鷹フルでは、主力選手だけではなく、若手からベテランまで選手1人1人にもスポットを当てて、今シーズンを振り返っていきます。今回は現役ドラフトでホークスに加入した長谷川威展投手をお届けします。花咲徳栄高では3年時にチームが全国優勝を成し遂げるも、当時はスタンドで応援していた長谷川。新天地への移籍1年目で加わることができた歓喜の輪。「1軍に1回も行けないんじゃないか」。そう感じていた春先から優勝に至るまでの思いを語ります。

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 遠慮気味な語り口も、自信をつけた今季だった。「ちょっと成り上がれた感じはあります」。現役ドラフト制度で日本ハムから新たに加入。変則的なフォームから繰り出すスライダーを武器とする、貴重な左の中継ぎだ。プロ3年目となる今季は、キャリアハイの29試合に登板し、4勝0敗、防御率2.31の成績。リーグ優勝に大きく貢献した。

「優勝するっていうのを外から見るのは、同じチームでも悔しい気持ちは絶対持つと思うので。あの時は確かにめちゃめちゃ悔しい気持ちはしていた。優勝の輪にいることが1番幸せだと思います」

 リーグ優勝を振り返り、こう語ったのには理由があった。“あの時”というのは、夏の甲子園で優勝した、花咲徳栄高時代のことだ。全国制覇の瞬間、歓喜の輪に長谷川は加わることができず、アルプスでその景色を眺めることしかできなかった。

「全然、悔しい方が強かったです。嬉しいっていう気持ちはほとんどないです。むしろ、すごいなっていう感じですね。悔しいけど、すごいなっていう」。当時のメンバーだった西武の西川愛也外野手らには尊敬の念さえ抱いたという。

 悔しさを抱いた2017年の夏から7年が経ち、左腕はようやく優勝の輪の中に入ることができた。「実感はそんなになかったですけど、いろんな人にお祝いされて、リーグ優勝したことを感じています」。チームにとっても、自身にとっても念願の優勝。それでも、長谷川は満足することなく前を向く。

「もっと貢献したかったなっていう気持ちは結構強いですね。ビハインドで点差を広げられずに、相手のチームのクローザーや勝ちパターン(の投手)を出すという試合はすごく大事だと思うんですけど。トータル的に見たら、もうちょっとできたというか。実力はこんなもんだなって思いましたね」

 不安の中でスタートしたシーズンだった。「1軍に1回も行けないんじゃないか、という不安はあったんですけど。でも、やるべきことはちゃんとやって、自分に必要なことをしっかりと補っていったら(最後まで1軍にいられた)という感じですね」。移籍が決まっても、春季キャンプの終わりごろまで、福岡で住む家は決まっていなかった。ホテル暮らしをしながら、練習するための時間を優先してきた。

 その結果がキャリアハイの成績を生み、優勝にも貢献する活躍に繋がった。「(自分の)実力もそうだし、(投手陣の)層も厚い」。活躍する場所がないかもしれない。そう抱いていた不安は、優勝を達成した今では自然となくなった。チームの勝利のために腕を振ることに喜びを感じている。

 花咲徳栄高時代の同級生でもある中日の清水達也投手と西武の西川は、今ではチームの主戦力になった。「2人の同級生は下位のチームにいて、その中で僕が優勝するっていうは感慨深いというか。ちょっと成り上がれた感じは……。でも2人とも主力になっているので、そこの差はありますけど」。全国優勝に導いた2人の成績は、今でも長谷川が意識するところでもあり、それが高みを目指すモチベーションにつながっている。

「主力になりたいっていう気持ちはやっぱり強くなりましたね」。リーグ優勝を経験したことで、新たな目標に気づいた。今季最長の4連敗で迎えた9月8日の西武戦(みずほPayPayドーム)では、1点リードの7回2死一、二塁のピンチで登板。源田から三振を奪い、渾身のガッツポーズを見せてファンを興奮させた。そんなシーンをこれから幾度と目にする機会が増えるだろう。7年越しの歓喜の輪は、長谷川にとって、とてつもなく大きな意味があるものになった。

(飯田航平 / Kohei Iida)