必死に我慢した悔し涙…「言われた瞬間やばかった」 川村友斗を救った栗原陵矢の優しさ

ソフトバンク・川村友斗【写真:小池義弘】
ソフトバンク・川村友斗【写真:小池義弘】

3月19日に支配下登録…小久保裕紀監督からいただいた“プレゼント”とは

 4年ぶりのリーグ優勝の裏には様々なドラマがありました。鷹フルでは、主力選手だけではなく、若手からベテランまでスポットを当てて、今季の戦いを振り返っていきます。今回は、川村友斗外野手。3月19日に支配下登録された新星が忘れられないのは、栗原陵矢内野手からの言葉だと言います。「どうしたんや?」。思わず涙を堪えた先輩の優しさは、どんなものだったのでしょうか?

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 出身は、北海道松前町。海の向こうには青森が見える小さな町で生まれ育った。2022年のドラフト会議で育成2位指名を受けて、仙台大から入団した。背番号は132番。育成だった2年目まで2軍監督は小久保裕紀監督だった。「プロに入ってからずっと、監督は小久保さんです」。今年の春季キャンプではA組に選ばれて、3月19日に支配下登録。会見を終えた後、仲田慶介内野手、緒方理貢外野手とともに監督室に呼ばれた。

 指揮官からもらったのは、和紙だ。「『ここからがスタート』というか、そういう思いが込められていたと思います。すごくいい紙で、額縁に入っていて。3人で支配下になって会見が終わって、挨拶をしに行ったらいただきました」。背番号は2桁になったが、まだ1軍の試合に出場する権利を得ただけ。隙を見せない小久保監督らしい言葉だった。

 27日を終えた時点で今季は83試合に出場して打率.274、1本塁打、14打点。「今シーズンは、いろんな経験をできたシーズンかなと思います」と、失敗も成功も全てが初めてだった。記憶に残っているのは、喜びよりも、ミスをした時の怖さだという。「守備固めをやって(打球が)頭を越されたこと、送球をそらしたことが僕の中で怖さになりました。ビビってはいないですけど、先輩方がよくいう『怖さ』を経験できたのかなと思います」。1つ1つのプレーがチームの勝敗を左右する。1軍の重圧を身を持って経験してきた。

 川村が挙げたのは、8月17日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)。ベンチスタートだったが、同点の8回から中堅の守備に就いた。牧原大成内野手の失策で先頭打者が出塁。その後、2死満塁となりポランコを迎えた。打球は鋭いライナーで、中堅に飛んでくる。川村は背走して追いかけるも、わずかに及ばず。3点二塁打となり、チームも敗れた。

 試合の終盤で、守備からチームに貢献することを期待され、送り出された。際どい打球を処理しきれなかったことが悔しくてたまらなかった。「1人でロッカーで。『うわぁ』って思って」。落ち込んでいるところに声をかけてきたのが、ロッカーが隣の栗原だった。「『どうしたんや』って言われた瞬間がもうやばかったですね」。先輩の優しさに触れて、溢れてくる感情を抑えるのに、とにかく必死だった。それくらい、悔しかった。

「(守備固めって)結構緊張するんですよ。頭も越されたりして。嫌でもSNSの言葉って目に入ってくるし、こんな感じになるんだなって思いました。ポランコに越された時とかは、あの時はすごく落ち込みました。いろんな言葉を目にしましたし、SNSにはいろんなありがたい言葉がたくさんありますから。でもそういうのがあって、クリさんが『これで本当のプロ野球選手になったな』みたいな感じで言ってくれたので。感謝しています」

ソフトバンク・川村友斗(左)と栗原陵矢【写真:竹村岳】
ソフトバンク・川村友斗(左)と栗原陵矢【写真:竹村岳】

 栗原も、今季が10年目。日本代表にも選ばれるなど、大きな重圧は何度も乗り越えてきた。川村にかけた言葉について「『これからそんな経験はいっぱいあるから、いい経験したね』って話をしました。ああいうプレーが、やっぱり練習からいい意識で取り組める(ように自分を変えてくれる)というか」と明かす。自分も味わってきた野球の“怖さ”を、後輩が経験しているのだから、手を差し伸べたくなった。

「あのプレーは(捕球が)できて当たり前じゃないですよ。紙一重のプレーですけど、そういうところ捕れるようになると大きいと思いますし、結局、練習からどれだけ意識できるか、だと思います。あれで落ち込むことは誰でもできますし。それをどう自分で克服できるか、もう1個成長できるか。やるのは川村ですから、それに期待しています」

 22日の楽天戦(みずほPayPayドーム)では、プロ初本塁打も記録した。育成時代から、1軍にしかない栄光と重圧を目指してきた。「嫌なこともありました。『またこの場面か』みたいなのもあったんですけど、それをやっていかないと成長できないので」。限られた出場機会から、チームの優勝に貢献したシーズン。確実に、川村友斗の表情はたくましくなっている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)