「僕はマツの球を信じています」 甲斐拓也が絶賛…10年で花開いた松本裕樹の才能

ソフトバンク・甲斐拓也(左)と松本裕樹【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・甲斐拓也(左)と松本裕樹【写真:荒川祐史】

9月4日の日本ハム戦で右肩痛を理由に緊急降板…今だから振り返る“あの登板”

 ホークスは4年ぶりのリーグ優勝に輝きました。鷹フルでは、若手からベテランまで選手1人1人にもスポットを当てて、今シーズンを振り返っていきます。第2回は、甲斐拓也捕手をお届けします。今季の戦いを振り返る中で、言及したのは松本裕樹投手の存在。「信じることができる」。セットアッパーに守護神と、多彩な起用に応えた28歳に、甲斐が送る最大級の称賛とは――。

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 勝つことで評価される捕手というポジション。4年ぶりの優勝を「率直に良かったなという感じですかね」と語る。甲斐自身は24日時点で113試合に出場して打率.259、5本塁打、42打点。チーム防御率2.53はリーグトップの数字で、海野隆司捕手とともにバッテリーの頑張りもリーグ優勝に繋がった。

 シーズンを振り返る中で、欠かせないのが松本裕の存在だろう。今季は50試合に登板して2勝2敗、14セーブ、23ホールド、防御率2.89。7月5日にロベルト・オスナ投手が登録抹消されると、守護神の座を託された。9月5日に右肩痛を理由に登録抹消され、今はファーム調整が続いている。リハビリ組管轄ではあるが、大阪まで駆けつけた松本裕も「『優勝したな』って感じですね」と、冷静に歓喜の瞬間をかみしめていた。

 甲斐から見た松本裕は、どんな活躍だったのか。「もちろん!」と語気を強め、言葉を続けた。「マツもね、もう本当にものすごく大変だったと思うんですけど、それだけの力があるピッチャーなのでね。どれだけ信用してできるかっていう部分になるんですけど。僕はものすごくマツの球っていうのは信じていますし、それだけの球の力があると思う」と、絶賛した。

 近年はセットアッパーとしての役割を務めてきた。今季は守護神も経験するなど、松本裕にとっても飛躍のシーズンとなった。託されるイニングによって、ボールから違いは感じるのか。甲斐は「なんて言うんだろう、そういうのはあんまりなくて」と語り出す。

「もちろん8回と9回っていうのはまた違う部分もあると思いますし、9回って難しい部分もあるとは思うんですけど、僕はもうピッチャー陣の球を信じてやるだけですし。マツの球っていうのはある程度受けてきて、それだけの球だなと僕は信じることができるなと思います」

 今季10年目を迎えた右腕。何度も受けてきた球から甲斐は成長を感じ取り、「信じることができる」という言葉で存在感を表現した。最大級の称賛だった。「それはもうマツだけじゃなくて、1軍にいる若いピッチャーもそうですけど、みんなの球を信じてやらないと。自分自身が信じて要求しないといけない部分ではあるので。そうじゃないと、絶対に要求ができなくなっちゃうので」。自分が疑ったままサインを出していてはいけない。期待を超えてきてくれた若い投手陣には、感謝しかなかった。

 松本裕自身は、どんなシーズンだったのか。「中継ぎで7回、8回、9回といろんなポジションをやってみて。新しいことをやり始めた時はちょっとした壁というか、乗り越える新たなものがあったなというのは感じました。いろんな経験ができたなと思います」と振り返る。クローザーを任された当初は、失点する場面も目立った。9回ならではの難しさも感じたといい、「シーズンの途中からっていうのがちょっと難しかったです」と、これもまた貴重な経験となった。

 右肩痛を抱えて戦った。9月4日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)では先頭打者に四球を与えて緊急降板。最速は145キロにとどまっていた。マスクを被っていた甲斐の胸にも、この日の登板は刻まれていた。「あの試合は、結局逆転もされて苦しいところがありました」。松本裕も「今考えれば、もっとできることはあったなと思います」と、言葉少なに結果を受け止めていた。ビールかけに呼ばれたこともまた、松本裕がチームにとって欠かせない存在であった証だった。

 甲斐は「そのため(リーグ優勝のため)にやってるので、そこは良かったと。今日は今日で、しっかり楽しみます」と頷いて、ビールかけ会場へと足早に消えていった。投手と捕手、共同作業で戦ってきた。優勝という結果は、バッテリーの頑張りが報われた最高の瞬間だった。

(飯田航平 / Kohei Iida)