天才の知られざる“不安” 近藤健介が自ら上げたハードル…「不調と言われるのは当然」

ソフトバンク・近藤健介【写真:小池義弘】
ソフトバンク・近藤健介【写真:小池義弘】

明らかに変わった周囲の目「もちろん、それはありますね」

 4年ぶりのリーグ優勝を記念し、特別版でお送りする「連載・近藤健介」。第2回は近藤健介外野手の知られざる“不安”について。2冠王として迎えた今季、明らかに変わった周囲の目——。「超一流打者」への階段を上ったからこそ抱いた思い……。存分に語ってもらいました。

「やっぱり不安はありましたね」。普段の近藤からは想像できない言葉だった。

 ホークスにFA移籍した昨季、26本塁打、87打点で打撃2冠に輝いた。日本ハム時代の「ヒットメーカー」というイメージは、「スラッガー」にがらりと変わった。今季もコンスタントに快音を響かせ、シーズン中盤までは3冠王を期待する声も聞かれた。

 ここまで129試合に出場して打率.314(リーグ1位)、19本塁打(5位)、72打点(4位)、出塁率.439(1位)、OPS.960(1位)。今季の成績を率直にどう感じているのか。

「数字的に見れば、まあそこそこかなと思っています。それなりに思い描いている数字にまとまってきたんですけど、これで満足せずにとは常に思ってますね。やっぱり7月、8月ってそこまで(自分の)調子が上がらないで、チームも波に乗れなかったので。やっぱり打つべき人が打たないと、チームの成績も上がってこないなと感じた1年でしたね」。納得した様子は一切なかった。

 昨季の活躍で、自らがハードルを上げた形となった。「もちろん、それはありましたね」。そう認めつつ、続けて明かしたのは“本音”だった。

ソフトバンク・近藤健介【写真:小池義弘】
ソフトバンク・近藤健介【写真:小池義弘】

「去年は“出来すぎ”と思っていましたし、ホームランはもちろん、長打を増やしたいって言っても、あそこまで増えるとは思わなかったので。長打力の面では、まだまだ自信がついたわけでもない。それでも、これまでよりもいいものを、常に高いレベルでパフォーマンスできるようにと心がけているんで。そこに対しては、やっぱり不安はありましたね」

 明らかに高まった周囲の期待——。近藤はそれを静かに受け入れた。「常にそういうの(期待)は付きまとってくるとは思います。13年間この世界にいますけど、やっぱり毎年、安定して成績を残すっていう難しさだったり、凄さだったりを感じているんで。そういう選手になりたいなという思いは、より強くなったのかなと。当然、そういう(ハイレベルな)成績にならないと、不調だとか言われるのは当然なので。そこに近づけるようにとは思ってます」。

 長打力を追い求めた理由。それはプロ野球選手としての純粋な“欲求”だった。「このままじゃ僕の野球人生はつまんなく終わっちゃうな、長くできないなって」。自らが望み、そして遂げた進化。だからこそ、不安に押しつぶされるわけにはいかなかった。

「打率3割でいいバッターと言われますけど、そこは当たり前だと自分の中でも思っていますし。打率3割、出塁率4割は最低限クリアした中で、これまでよりいいものを、常に高いレベルでパフォーマンスができるようにと心がけているので。ただそれだけです」

 9月16日のオリックス戦で右足首を捻挫し、2年連続の全試合出場はかなわなかったものの、今季残した数字は堂々たるものだ。天才打者が見据えるさらなる高み。歩みの先にある景色を見てみたい

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)