周東佑京の助言、実はゴリ押し? 正木智也に気遣い…ベンチで目撃した絶妙な“掛け合い”

11日の楽天戦、ベンチスタートだったソフトバンク・周東佑京【写真:矢口亨】
11日の楽天戦、ベンチスタートだったソフトバンク・周東佑京【写真:矢口亨】

今宮のコメントに西田広報も「なんかカッコいいですよね」

 野球中継を見ている時、球団広報を通じて選手のコメントを聞いたことがあると思う。「談話」と呼ばれる時もある。本塁打を放った選手や、試合途中の投手コーチ、降板した先発投手など、種類は様々だ。真剣勝負の試合中。選手に近づいてコメントを取り、配信するのが広報の仕事だ。ホークスなら野手を西田哲朗広報、投手を柳瀬明宏打撃投手兼広報が担当している。

 11日の楽天戦(楽天モバイルパーク)だった。6回1死から正木智也外野手が6号ソロを放った。「打席に向かう前に(周東)佑京さんからアドバイスをもらい、シンプルに思い切っていこうと打席に入りました。初球からしっかりと自分のスイングができたと思います」。周東佑京内野手から助言をもらっていたことを明かした。

 正木本人は「2打席目が終わった後、佑京さんと次の打席どうしようかなーみたいな話をしていた時に、『ホームラン狙っていけよ、ホームランいけよ』みたいな感じで言われた」と語っていた。直接コメントを取った西田広報には、2人のやり取りはどのように見えていたのか。

「あれは2人の掛け合いがあったんです。僕がコメントを聞く前から佑京が『コメントで俺の名前出せよ!』、『絶対俺のアドバイス(で打てた)やろ!』みたいに言っていて、正木も笑っていましたから。そのやり取りもあって、コメントを出した感じですね」

 周東本人は「『佑京さんのアドバイスで打てましたって(広報に)言っとけ』って言いました」と話していた。どうやら「言っとけ」というテンションよりは、もう少し“ゴリ押し”していたようだ。この日はスタメンを外れていたスピードスター。西田広報も「(正木への)気遣いでもあったんじゃないですかね。試合中ですし、打った直後ですしね」。先発を外れていても、どんな形でも試合に入っていく。周東なりの弱さを見せない姿、後輩を気遣う心が、西田広報の印象にも残った。

11日の楽天戦の3回、今宮の適時打で生還するソフトバンク・緒方理貢【写真:矢口亨】
11日の楽天戦の3回、今宮の適時打で生還するソフトバンク・緒方理貢【写真:矢口亨】

 この日、印象的な広報コメントがもう1つあった。2点を追いかける3回1死一、三塁で川瀬晃内野手が左犠飛を放った際に、一走の緒方理貢外野手がタッチアップで二塁を陥れた。続く今宮健太内野手が同点の適時打を放ち、「川瀬の犠牲フライで二塁に進塁した(緒方)理貢の好走塁がヒット、タイムリーに繋がりました」とコメント。緒方は3月19日に支配下登録され、1軍で戦う初めてのシーズン。隙を見せない走塁に、今宮がスポットライトを当てた形だった。

 西田広報も「今宮的にはセカンドゴロだったかもしれない打球が、(緒方が)チャンスメークしたおかげでヒットゾーンが広がっていた、と。(そこをコメントにしたのは)今宮の感覚、野球センスじゃないですかね」と解説する。大卒4年目の緒方は開幕1軍に入り、1度も登録抹消されずにシーズンを過ごしている。主に代走での出場で、西田広報も「ミスをする選手っていつまでもミスをするものです。でも理貢は流れを変えられるプレーができるし、使いやすいんだと思いますよ」と印象を語った。緒方の好走塁が、球界屈指の遊撃手と呼ばれる今宮の目に止まった。

 緒方は2安打を放ち、チームも大勝。実はヒーローインタビューに選出する選択肢もあったそうだ。西田広報は「バントを決められなかったじゃないですか。今のチームは『隙を見せるな』と言っていますし、大事にしているところ。本人が一番悔しいでしょうし、今宮もタイムリー3本ですからね」と説明した。8回無死二塁から犠打を成功させられなかったことが、要因となったようだ。

 結果的にマイクを握ったのは今宮だった。「優勝まで近いようで、近くないので。また気を引き締めて頑張っていきたいと思います」。チームの思いを代弁したような、今宮の率直な胸中だった。広報を通じたコメントとはまた違い、思いを直接ファンの前で言葉にできるヒーローインタビュー。西田広報も「なんか、今宮のコメントってカッコいいですよね。声もいいですし、周りを引き込む力がありますよね」と頷いていた。

 2020年シーズンを最後に現役を引退し、裏方となって4年目を迎えた西田広報。リーグ優勝こそ「最高の露出」と言い、選手の魅力を伝えられるように努力してきた。歓喜の輪を作り、選手たちが心から笑う。1年間、目指してきた瞬間まで、あと少しだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)