ついに1軍の舞台で顔を合わせることができた。大切な家族でもあり、誰よりも1人のプロ野球選手として認める存在だ。ソフトバンクは27日、みずほPayPayドームでオリックス戦を迎えた。試合前、ホークスナインの元へ挨拶に回っていたのが川瀬堅斗投手だった。川瀬晃内野手の実弟。背番号が2桁となった堅斗の姿を初めて見た兄は「いつも通りだったので、よかったです。ソワソワしていなかったです」と笑顔で話した。
5歳差で、2人とも大分商業高出身。兄は2015年ドラフト6位でホークスへ、弟は2020年育成ドラフト1位でオリックスに入団した。7月30日に待望の支配下登録をつかみ取り、背番号が「94」に変わった堅斗に対し「育成とはいえプロ野球選手ですから。僕も弟の試合を見ていましたし、これからだと思うので。嬉しかったですけど、自分のことで精一杯な部分もありますね」と率直な思いを語る。優勝に向かってひた走る今シーズン、自分のことに集中していた中で届いた吉報だった。
まだ弟が育成だった2023年シーズン。「厳しい言葉もかけましたし。もっともっと上を目指してお互いに頑張っていこうという話はしました」と明かしていた。幼い頃から一緒に白球を追いかけてきたからこそ、兄として誰よりも厳しく接してきた。
「厳しい言葉というか、兄弟の会話って感じでしたけど。(堅斗にとって2023年シーズンは)3年目でもありますし。ホークスでも育成の後輩がたくさんいて、そういう人がやめていったのを僕は見てきたので。弟も3年目ということで、それを伝えました。もっと気を引き締めて、自覚を持ってお互いに頑張っていこうって。高め合うような感じですね。僕もやらないといけない立場なので。2人で確かめ合った感じです」
ドラフトの同期入団で、今もホークスでプレーしているのは川瀬自身と谷川原健太捕手の2人だけ。ヤクルトの小澤怜史投手、ロッテの茶谷健太内野手ら他球団で華を咲かせた選手もいる一方で、1位だった高橋純平投手は昨オフに戦力外通告を受けて現役を引退した。志半ばでユニホームを脱いでいく選手を見てきただけに「ホークスは他の球団よりも育成が多いですし、そういう(戦力外になっていく)子を見て、僕も自分に言い聞かせるつもりで弟に話はしました」。自身にとっても決意の表れだった。
2023年は堅斗にとって節目のシーズンだった。育成選手は3年目を終えれば1度、自動的に自由契約となる。それだけに兄として「僕も心配になります」と胸中を語っていた。かけがえのない家族だからこそ抱く、当たり前の感情だった。「昔とは見方はちょっとずつ変わってきますよね。兄弟なんですけど、この世界に一緒にいるということを意識する部分もありますし、頑張らないといけないなと。それはこの世界にいるからだと思います」。ライバルチームとはいえ、常に特別な気持ちで弟の活躍を見守っている。
年末年始、大分に帰省すれば顔を合わせる。「キャッチボールとかもしますよ」。兄弟だけの大切な時間だ。一方で、「やっぱりいい球を投げているんですよ。それだけにもったいないなと思いますし、頑張ればいけるんじゃないかって期待もあるので、それこそ諦めて欲しくない。悔いのないようにやってほしいです」。誰よりも期待するからこそ“もったいない”と感じていた。家族という視点ではなく、1人のプロ野球選手として弟を見た際にどんな感情を抱くのか。
「(プロ野球選手として)ステップアップできているのか、といえばできていないのかもしれません。だから、どうしているのかなって心配もあります。僕から連絡をすることもありますけど、プロ野球って1人でやっていかないといけない。(帰省した時は)僕も聞かれたら答えますけど、投手と野手で違うこともありますし。どういうトレーニングをしてる? っていうのは聞かれます。難しいところはあるんですけど……」
2024年7月30日、堅斗に吉報が訪れた。兄としても待ちに待った瞬間だった。「両親から先に聞きました。『そういう話をもらった』って。表に出るまでは誰にも言わないでほしいとのことだったので。発表があった時に僕から連絡しました」。オリックスが福岡入りした今月26日には食事にも出かけたそうで「プロに入る時に、いつか対戦できればいいと話をしていましたけど、そういうチャンスが巡ってくるとは……。僕だけじゃなくて、両親が一番喜んでくれています」。チームの勝敗を背負って真剣勝負をすることが、兄弟と、お世話になった人たちが抱く夢だ。
「一喜一憂じゃないですけど、先を見ずに1日1日を大切に過ごしておけば、いいことがあるのかなって感じてきました。そういうことは伝えたいです。日々を無駄にしないように」
川瀬自身も今季が9年目。毎日を必死に過ごしてきたから今がある。大切な家族として、そして1人のプロ野球選手として。弟に栄光を掴んでほしい。