偽らざる本音を伝えられて、言葉を失った。ソフトバンクの大津亮介投手が15日に出場選手登録を抹消され、今はファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で汗を流している。再調整となったことで「申し訳ないです」と名前を挙げたのが海野隆司捕手だった。コンビを組んできた海野は“謝罪”を伝え聞き「そんなこと言ってたんですか……」。バッテリーとして同じ悔しさを味わったのだから、もう一度、1軍の舞台を目指そうという気持ちを同じだけ持っていた。
昨シーズン、大津は中継ぎとして46試合に登板した。今季から念願だった先発に転向し、開幕ローテーション入りを掴んだ。16試合に登板して6勝7敗、防御率3.13。最後に白星を記録したのは6月29日の日本ハム戦(エスコンフィールド)だ。7月以降は苦戦が続き、8月14日の西武戦(ベルーナドーム)では5回4失点。小久保裕紀監督は「ここがラストチャンスというわけじゃなかったんですけど、来週からは6連戦が1回しかないし、控えているピッチャーもいる」と話し、2軍降格が決まった。
再調整となって1週間が過ぎた。灼熱の筑後で送る1軍復帰への日々。そこで溢したのが海野への「申し訳ないです」という言葉だった。1軍で先発した16試合のうち、15試合でバッテリーを組んだのが“相棒”。言葉の真意は、海野の準備と期待に応えられなかったところにあった。
「(2軍降格となったのも)悔しいですよ。めちゃくちゃ悔しかったですし、海野さんには本当に申し訳ないです。バッテリーってイメージも大事だと思うので。海野さんも海野さんで、配球も、めっちゃビデオを見て必死にしてくださっていた。また、次、リベンジしたいですね」
必死に自分を引っ張ってくれた海野への“謝罪”は本心から出たものだ。大津の思いを知った海野は「そんなこと言っていたんですか……。僕も申し訳ないです。最初は勝てていましたけど、その後は勝たせてあげられなかった。僕も歯がゆかったです」と受け止める。海野にとっても、ここまで1軍で試合に出るのは初めての経験。1歳年下の大津に「本当に持っている能力は高いです。だからこそ、僕の方こそ申し訳ないです」と言うしかなかった。
翌日の試合に備えて、相手打者の映像を見て情報を頭に入れる。捕手にとっては毎日がその繰り返しだ。「過去の試合とかも含めて、めちゃくちゃ考えてくれていました。多分ですけど、1日以上前から準備もされて、あの人のおかげで勝てた試合も何試合もありましたし、感謝しかないです」と、大津の感謝は尽きない。挙げた6つの白星は、まぎれもなく海野と掴んだものだ。
調子を落とした要因は、疲労だと自己分析している。「倉野さんとは疲労から来る体のメカニクス(が要因)だと話しました。前半戦ほど、勢いがなかったと思います。それで球も浮いてしまっていた。疲労で低めに行かなかったので」。多彩な球種と制球力を生かしたコンビネーションが最大の武器。「体のキレが鈍くなってしまっていた。言い出したらたくさんあるんですけど……」。コンディションがボールに表れていたことは、大津が一番感じていた。
昨季もシーズンのほとんどを1軍で過ごした。ブルペンでチームを支えるのと、ローテーションを守ることは「全然違います」と言う。「中6日で1年間、と考えると、今後に向けての自分の課題がたくさん見つかりました」。1週間の調整でさまざまな工夫も凝らした。「食事のタイミングとか睡眠時間、スマートフォンを触ってから寝ちゃうとダメだと思うので、なるべく早めに寝てみたり」。苦しい期間だったが、間違いなく自分を成長させてくれた。
「経験で体も覚えると思います。1か月できて、2か月できて、3か月目からできなくなったんですけど、それも場数を踏んでナンボの世界だと思いますから。また疲れが抜けなくなってきたら、新しいケアの方法を探してやっていきたいです」
勝ち星から遠ざかった期間、小久保監督は「今を乗り越えんとね。こういうのがあって来年以降の夏場、7月に向けてどういうことをやっていったらいいかって気付けると思うので」と、来季以降を見据えて大津に経験を積ませようとしていた。それは本人も痛感しており「粘って使ってくださったと思う。(首脳陣の思いは)感じていましたし、倉野さんからも『1年間、ローテを守り続けてほしい』と言われ続けていました」。
2軍降格となる際、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)も悔しさを分かち合ってくれた。「最後に『俺も悔しい』って言ってくれました。でも『すぐに戻ってきてほしいから、しっかりリカバリーして戻ってこい』って。最後、僕も優勝に貢献できるように頑張りたいです」。ホークスは優勝へのマジックを「23」としている。大津も海野も「リベンジしたいです」と口を揃える。悔しさも苦しさも糧にして、1軍のマウンドで勝ちたい。