先輩の決勝打に、ベンチを乗り出して拳を握った。たった一言の感想には、大物感が漂っていた。ソフトバンクは7日、楽天戦(みずほPayPayドーム)に5-3で勝利した。1点ビハインドで迎えた8回。2死満塁の場面に代打で登場したのが柳町達外野手だった。右翼線を破る痛烈な当たりは、逆転の3点三塁打となった。
1点を追いかける中で、試合は8回に突入した。今宮健太内野手の安打や、中村晃外野手の四球。全員で繋いで、2死満塁のチャンスを作った。逆転の一打を放った柳町も「打った瞬間はファウルと思ったけど『頼む、残ってくれ』と思って。フェアに残った瞬間、嬉しかったですね」と興奮して語った。ベンチも当然、大喜び。その中で誰よりも感情を見せていたのが正木智也外野手と廣瀬隆太内野手だった。
楽天との3連戦で廣瀬は8打数無安打。小久保裕紀監督は若手について「4万人近い人のため息を感じると、悔しさもありますけど、怖さってありますよね」と語る。怖さに立ち向かい、乗り越えていけるかどうかが、打者の成長に繋がると説く。ベンチから眺めた、先輩の決勝打に、廣瀬は何を感じたのか。
「だって、嬉しくないですか?」
ベンチで見せた熱い表情、ガッツポーズの理由について聞くと、いかにも廣瀬らしい淡々とした言葉が返ってきた。「頼もしいですし、刺激になります。お互い頑張ろうと思います」。チームの得点が嬉しいのは当たり前のこと。その中でも慶大の先輩である柳町の勇姿から受けた刺激は、いつもと違っていたという。
小久保監督がいう“怖さ”は廣瀬も感じ始めているのだろうか。慶大時代にはキャプテンを務め、重圧は何度も経験してきた。調子が悪くなってきた時、すぐに復調できるかどうかも選手として大切なこと。心掛けることには「切り替えじゃないですか」と即答する。「メンタルが沼ってくることもあると思いますけど、切り替えじゃないですかね。(今は)あまり気にしていないです」と、ここでも廣瀬らしい言葉が返ってきた。
そんなルーキーだが、もちろんこのまま上手くいくとも思っていない。「まだ(調子が)落ちたてなのでこんなこと言えますけど、本当にどうしようもなくなって、バットにも当たらなくなって、打席に入るのが怖くなったら、それは怖いですよ」。だからこそ、日々の準備を怠らず、1試合1試合を大切にしてグラウンドに立つ。
「もっと打てなくなったら、(スタンドからの)ため息も大きくなるでしょうね。最近打っていたので、まだお客さんも“しょうがないか”というか、そんな感じで受け取ってくれているかもしれませんけど、これがもっと打てなくなったら、ため息も増えるかもしれませんね」
牧原大成、三森大貴両内野手の相次ぐ離脱で巡ってきた二塁のポジション。ここまで、93打数23安打、打率.247、2本塁打と、ルーキーながらに堂々としたプレーを続けている。小久保監督がいう選手としての“怖さ”だが、廣瀬はまだ感じるまでには至っていないのかもしれない。改めて、大物感を漂わせる23歳だ。
「伸び伸びやらせてもらっているので。主軸にもなってきたら勝敗に関わってくるかもしれませんけど、1年目ですし。伸び伸びと、僕はやらせてもらっています」
柳町の決勝打で制した一戦。小久保監督も「よく打ちましたよ」と絶賛していた。今度は廣瀬のバットがチームを救うことを、誰もが願っている。