感覚以上に残る打率に「不思議です」 首脳陣の評価と井上朋也の感覚に生じたギャップ

ソフトバンク・井上朋也(左)と明石健志2軍打撃コーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・井上朋也(左)と明石健志2軍打撃コーチ【写真:竹村岳】

今の感覚が「もしかしたら正解なのかもしれない」

 追い求める理想が高すぎるが故に、自身の感覚と結果にギャップが生じている。井上朋也内野手は、現在の状態について「悪いなりに耐えています。全て悪いです」と浮かない表情で明かした。打撃が最大の持ち味である若鷹。日々の練習から二人三脚で歩む明石健志2軍打撃コーチは、井上の状態をどう見ているのか。「自分の物差しは絶対に持ち合わせた方がいいです」と話した理由に迫っていく。

 今季の井上は春季キャンプからA組で三塁のポジションを争うも、オープン戦では打率.080。開幕を2軍で迎えた。ウエスタン・リーグでは打率.285、2本塁打、21打点の成績を残しているが、本人は「見え方もタイミングも構えもトップも、(バットの)出方も全然違います。なのに奇跡的に(打率が).285ぐらいあって……。去年より打っているので不思議です」と、首を傾げる。

 笹川吉康外野手が15日の阪神戦(みずほPayPayドーム)でプロ初本塁打を記録。同期で同学年の活躍すら「吉康とかそういうのじゃなくて、このままじゃ上がれないと思っているので」と言うほど、今は自分のことだけに集中している。自分の中で見つけている“光”に向かって練習しているのではなく、どこに“光”があるのかを探している状態。そんな井上を、明石コーチは「1個1個のことを全部完璧にというか、細かいです」と切り出す。指導者の目線では“求めすぎ”だと言う。

「ゴリ(井上)の場合は結果が出ていないわけではないし、状態が悪いと言っても3割近く打っているわけなので。僕は見ていても何が悪いとかっていうのは……。(本当に)悪かったらバットに当たらないので。今までにないぐらい悪いといっても、今までで一番打っている。それがもしかしたら正解なのかもしれないですよね」

 昨季、井上はウエスタン・リーグで打率.253、9本塁打、38打点の成績を残した。昨季より高い打率を残している現状を「奇跡的」と表現する。プロとして高い理想を抱くことは重要だが、実際の成績と感覚にギャップが生じているだけではないかと、明石コーチの目には映っている。打者が進んでいかなければいけない方向性は2つしかないという。

「自分に合っていないことを一生続けたとしても、伸びないと思う。ひたすら感覚を掴むために振るのか、感覚がいい打ち方を固めるのかっていう、方向性はこの2つだけだと思います」

 バットを振り続けて自分だけの形を見つけるか、理想的なフォームを早々に見つけて固めるか。これには井上自身も「練習していれば『これいいかも』というのが出てくると思うので、そこは練習していくしかないです」と足元を見る。打撃の「全てが悪い」という中でも、もがきながら感覚を掴もうとしている段階だ。

 明石コーチは2022年に現役を引退し、今季が指導者として2年目。若手と接する中で「形を気にする選手がすごく多い。練習だったらいいんです。でも試合になったら、いい形で打てるなんてそんなにない」と言及していた。投手が投げて全てが動き出すだけに、打者は受け身。自分のフォームをしっかりと固めた上で「結果的にその形で打ちにいって、あとは対応だと思います。あまりにもそこ(形)を気にしすぎるのも、っていうのはある」。一番大切なのは試合での結果。そのための順番だけは、選手に忘れてほしくない。

 井上もドラフト1位で入団して今季が4年目。能力は誰もが認めているだけに、明石コーチも「『打つ時にこうなるんですよ』って言うんですけど、『そういう感じを出したくて、その練習をやってるんじゃないの?』っていうのは多々ありますね」と言う。完璧主義とも言える井上の姿。練習でやっていることを試合で表現できる打撃センスは、確実にある。だからこそ、追い求める理想に近づくには、練習の中で取捨選択をすることが大切だと明石コーチは続ける。

「自分の考え方があまりにも完璧を求めすぎると……。求めるんですけど、自分のキャパというか、自分の物差しは絶対に持ち合わせた方がいいです」

 新しい感覚を受け入れることで、次のステージが見えてくるかもしれない。1日でも早く、井上だけの感覚が見つかることを明石コーチも願っている。

(飯田航平 / Kohei Iida)