開幕以降は2軍生活…気持ちを切らさずにいた要因は「まだ楽な方じゃないですか?」
チャンスを待ち続け、1軍で形にしようとしている。誰よりも前を向き続けてきたから、説得力があった。「諦めんな」。ソフトバンクの柳町達外野手は17試合に出場して打率.351、0本塁打、9打点。5月28日に1軍昇格して以降、安定した打撃でチームを救い続けている。5年目を迎えた27歳が、大学時代の後輩でもある育成の佐藤宏樹投手にメッセージを送った。
チームは昨オフに山川穂高内野手、アダム・ウォーカー外野手らを補強。柳町は昨季に116試合に出場して打率.257、80安打を記録したが、2024年は開幕を2軍で迎えた。小久保裕紀監督は柳町を「アタマから出る選手」と表現する。柳田悠岐外野手や近藤健介外野手らに阻まれてベンチを温めるなら、2軍でじっとチャンスを待ってもらうというのが首脳陣の判断だった。5月28日から1軍に昇格して、文句なしの成績を残しているのも、前だけを見て準備をしてきた最大の証だ。
ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」を筆者が訪れた6月上旬、リハビリ組に佐藤宏樹投手がいた。今季ウエスタン・リーグで3試合に登板して防御率1.74。4年目の今季こそ2桁背番号を掴むために、全てをかけるつもりでいた。しかし、右脇腹を痛めてしまい、マウンドに立てない日々。自身のことを「ネガティブ」と表現する左腕からは、弱音も聞こえてきた。
柳町にとって、慶大時代の1学年後輩。アマチュア時代から同じユニホームを着て戦ってきた仲間の1人だ。佐藤宏が漏らしていた言葉を柳町に伝えると、力強く、こう返してきた。
「諦めんな、気持ち切らすなって言っておいてください」
2軍でチャンスを待っていた柳町と、育成左腕でリハビリにいる佐藤宏では、単純に比較はできない。それでも今の柳町の成績があるのは、何一つ諦めなかったからだ。「気持ちを切りたくなるのもわかりますけどね……」と当然、後輩の気持ちも察する。その中で、5年目を戦っている柳町に、確かな強さが生まれている。
「そこで切れたら凡人だと思うんです。そこで切らさなかったら、本当にすごい人になれる。だって、普通の人は切れるじゃないですか。普通にならないためには、切らさないために頑張るとか、そういうことが大事なんじゃないですか」
ウエスタン・リーグでは40試合に出場して打率.333。「いい時も悪い時もありましたけど、それなりに悪い時に頑張れました」というものの、モチベーションを失わなかったから残せた数字だ。辛かった日々を経て「プロ野球選手として、というよりは、1人の人間としてじゃないですか。それを若い時に経験できたのはプラスなんじゃないかと思います」。1つ1つの言葉に、深みが出てきた。
逆に、柳町はなぜ気持ちを切らさずにいられたのか。「好きなことができているので、辛かろうが、好きなことのキツさなんてまだ楽な方じゃないですか?」。幼い頃から続けてきた野球が、自分の仕事になっている。好きなことで悩めているのだから「まだ楽」と胸を張った。2軍時代から、小久保監督からも常に気を配ってもらってきた。「その日その日のあれ(波)はありましたけど、一貫したらそこまで(モチベーションを)見失わずにできたと思います」と振り返る。
6月1日に柳田悠岐外野手が登録抹消となった。柳町自身もほとんどの試合でスタメン出場を続け、目指し続けた1軍で暴れまくっている。「充実している感じはあります。打てない日もありますけど、その(1軍の)中でやれていることが一番充実しているかなと思います」。1軍に必要とされるということが、どういうことなのか。他の誰でもなく、柳町が一番よく理解している。柳田の離脱も踏まえて「やれることだけちゃんとやろうって思っています」と足元だけを見た。言葉の1つ1つが確かに、大人びてきている。
「色々あるんで、落ち着いてきます。一喜一憂していたら、シーズンを戦い切れないので、心を穏やかに。僕も気持ちを切らさずに頑張ります」。あれだけ前を向いていた柳町が1軍で結果を残していることは、ファームの選手にとっても必ず希望になる。後輩のため、自分自身のために、今は打って応え続ける。
(竹村岳 / Gaku Takemura)