「それが野球だよ」。穏やかな口調で振り返ったのはカーター・スチュワート・ジュニア投手だ。8日のDeNA戦(横浜)に先発し、6回を3安打7奪三振無失点と好投。表情には充実感が浮かんだ。
1点のリードを守り切って降板。チームは7回に2点を追加し、自身1か月ぶりの今季2勝目にほぼ手が届きかけていた。しかし、8回にセットアッパーの松本裕樹投手がオースティンに同点3ランを打たれて白星が消滅。スチュワートはこう続けた。
「もちろん勝ちは欲しいけど、実はそんなに気にしていないんだ。とにかく自分がマウンドに立つ時にチームが勝てば、もうそれだけでいい。そう思っているよ」
今季のスチュワートは7試合に登板し、1勝2敗。勝ち星こそついてはいないが、防御率2.09という安定した投球を続けている。投手として勝ち星がほしいのは当然のこと。それでもスチュワートは、チームが最終的に勝ったことを爽やかな笑顔で喜んだ。
スチュワートの思いはチームメートにも伝わっている。この日バッテリーを組み、4回に先制タイムリーを放った甲斐拓也捕手は「何とかカーターを援護して勝ちに結びつけたいです」と口にしていた。
「あの甲斐さんがそんなに優しいことを言ってくれるっていうのが、すごく嬉しい。選手として、キャッチャーとして、昨日(8日)もタイムリーヒットを打ってくれた。そういう選手が僕にそういうことを言ってくれるっていうのはすごい嬉しいんだ」
甲斐の言葉を聞き、満面の笑みを浮かべたスチュワートはさらに言葉をつづけた。「コーチやチームメートからも、すごくいいピッチングをしたねって言ってもらえたよ」。投手として、チームメートから“勝たせてあげたい”と思われることは、勝ち星を挙げるのと変わらないほどの喜びだ。
「無失点でマウンドを降りても勝ちがつかない時はあるし、たくさん点を取られてしまっても、うちの打線がもっと点を取ってくれて勝ちがつくとこもある。それが野球だよ」
勝ち星は1。それでも防御率は1点台に乗ろうとしている。チームへの貢献度はだれもが理解している。だからこそ甲斐の言葉があったのだろう。チームの勝利を誰よりも願う、スチュワートの気持ちがもらした8日の勝利だった。