柳田はヒーローインタビューで「次に拓也がいたので」…小久保監督&村松コーチも感謝
大熱狂の興奮が、直前までの緊張を全て消し去ってくれた。ネクストバッターズサークルから眺めたサヨナラ弾。繋いでくれていたら、次は自分だった。ソフトバンクは29日、西武戦(みずほPayPayドーム福岡)で5-4のサヨナラ勝利。柳田悠岐外野手の2号逆転サヨナラ3ランで決着がついた。柳田の次打者は甲斐拓也捕手だった。どんな心境で、自分の出番を待っていたのか。
先発はカーター・スチュワート・ジュニア投手で、海野隆司捕手がマスクを被った。8回から4番の山川穂高内野手に代わって、試合の流れに飛び込んだ。2点差のまま、9回へ。2死一、二塁で柳田が放った打球は、右中間スタンドへと消えていった。お立ち台で気持ちを問われると「絶対繋げるというというか。次に拓也(甲斐)がいましたので、とにかく繋げようと思っていました」と真顔で語る。
甲斐は28日の西武戦で一時勝ち越しとなる今季1号ソロを放った。とはいえ、打率.190。自分に打順が回ってくるとしたら満塁か、1点差や同点に追いついた状況。柳田の言葉も踏まえて、甲斐はどんな心境でネクストから見守っていたのか。
「僕も準備はしていました。(柳田さんのホームランを見て)嬉しかったですよ! 決めてくれたので、勝ったのでよかったです」
日本代表のユニホームも、日本シリーズの舞台も何度も経験した。それでも、チームの勝敗がかかった場面は「もちろん、もちろん。それはどんな状況でも変わらないです」と今でも緊張するという。柳田も「昨日もホームランを打っていますし、状態いいと思うので、なんとか繋ごうと。繋いだら何が起きるかわからないと思って、そういう気持ちで行きました」と笑顔で振り返る。後ろが誰であろうと、一緒に全力で勝利を目指すチームメートなのだから、ギータにとっても信頼するだけだった。
7回2死満塁では山川が見逃し三振に倒れ、同点のチャンスを逸した。8回の守備から、山川に代えて甲斐を送り出したという采配には小久保裕紀監督も「拓也(甲斐)には悪いですけど、1番回らない打順まで落として、9回はああいう風になるとわかっていましたけどね」と、7回の攻撃が4番で終わったから4番に入れたと説明する。海野もすでに交代していただけに「(塁が)詰まっていなければ(柳田を)歩かせも考えたかもしれないですけどね。最後の最後、キャッチャー2人で、あそこは代打出せないんで」と采配面でも、本当に紙一重の試合だった。
選手を送り出した側の村松有人打撃コーチも「一発でサヨナラを狙っていましたけど、まさかという感じです」と頷く。甲斐には代打を出せない状況であっても、柳田の「繋ぐ」という言葉に「そういう謙虚な姿勢があの成績に繋がっているんじゃないですか。それまで1本は出ていなかったんですけど、あの打席の集中力っていうところがいい結果になったんだと思います」と胸を撫で下ろしていた。逆転を狙った采配も、最後は柳田が勝利へ導いてくれた。
甲斐は「もちろんです」と小さく頷いて、柳田への感謝を表現した。選手にとってその瞬間は、緊張と重圧の連続。乗り越えていける選手だけが、ヒーローになっていける。
(竹村岳 / Gaku Takemura)