小久保裕紀監督の単独インタビュー「柳町、正木にも話しましたけど…」
開幕して19試合を終えて11勝6敗2分、対戦カードも2周目に入りソフトバンクは首位を走っている。小久保裕紀監督が、鷹フルの単独インタビューに応じた。就任1年目、全てが初めての経験という中で、3月19日には仲田慶介内野手、川村友斗外野手、緒方理貢外野手を支配下登録した。指揮官が語ったのは「いいオフを過ごした証」という、2桁に昇格させた具体的な理由。2軍監督時代に感じていたのは、育成選手の間で漂っていた“諦め”の空気だった。
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3月19日、3人の若鷹が2桁背番号を勝ち取った。仲田、川村、緒方。小久保監督にとっても2022年、2023年の2軍監督時代に手塩にかけた選手たちだ。「親心もあるっちゃあるけど、それじゃなくて本当に力で勝ち取りました」と理由を語る。2月のキャンプインからA組に帯同させ「本番モード」と位置付けていたオープン戦途中の3月19日に2桁を手渡した。小久保監督によると、このタイミングにも意味があったという。
「あの時期にしたっていうのは、オフに課題を与えた選手が継続して、練習しながら、春のキャンプの時には上手くなっていたんです。いいオフの過ごし方をしてきた証だったので、それは開幕の前に認めてあげる。戦力にもなったということで、今の育成は50人以上いますけど、いかに11月の秋のキャンプが終わってから12月、1月、キャンプインまでの過ごし方が大事かというのをわかってもらいたいという考えもありました」
育成選手なら、ある程度は球団の管理下のもと、オフを過ごすことになる。昨年11月の秋季キャンプでの過ごし方、与えられた課題を踏まえて、支配下になった3人は明らかに技術的な成長が確認できた。「今回みたいな例があると、オフに一回り大きくなれると春にチャンスがあるかもしれないっていう、このオフに入る育成の子たちのモチベーションも全然違うと思います。それもチーム作りの1つ」と語る。
当然、チーム事情も影響している。牧原大成内野手を二塁、谷川原健太捕手を捕手に専念させることを昨秋に明言した指揮官。「井出(竜也外野守備走塁兼作戦)コーチからしたら、レギュラーを入れても外野守備の上手かった2人を僕が剥奪したわけなので、川村と緒方の2人が入ったということです」と具体的に明かす。これまでユーティリティだった選手が1つのポジションで勝負することになったことも、理由の1つとなった。
柳田悠岐外野手、近藤健介外野手をはじめ山川穂高内野手ら、春季キャンプの時点からレギュラーとして調整を進めてきた選手が多く、小久保監督も「役割は明確」とも話してきた。ベンチ入りの人数は限られている。存在感のあるレギュラーがいるなら、次に必要なのは“黒子”のようにリザーブとして支える選手たちだ。
「柳町、正木にも話はしましたけど『後から行く選手としては彼ら(川村、緒方)の方が上』っていう評価をしたということです。悔しかったら勝負よ。監督として、後から行くなら彼らの方が上だと判断した」。スタメンがほぼ固定されている以上、控えの選手にまず求められるのは起用の中心となる代走や守備固めに対応できる走力と守備力。そのチーム事情にフィットする選手が川村や緒方らだと強調していた。
昨年と今年で戦力の状況は全く違うが、比較すると、昨年は支配下67人、今年は62人でキャンプインした。2桁への枠数は、育成選手のモチベーションそのもの。小久保監督は若鷹を見守っていた昨年の雰囲気を「(モチベーションは)全然なかったです。みんな“諦め”です。ピッチャーはちょっとあったかもしれないですけど、可能性として。野手は難しいですよね」と振り返る。結果的に育成から支配下登録を掴んだのは木村光投手だけ。野手の間で漂っていた空気を、指揮官は「諦め」と表現するほどだった。
支配下は残り5枠。まだ19試合を終えたところではあるが、小久保監督は「1軍に必要だなと思う選手になってもらいたいし。外からの補強というよりは、今いる選手たちからという思いも当然ある」と“自前”で戦力を生み出したい気持ちは強い。古川侑利投手、中村亮太投手、渡邊佑樹投手ら、2軍戦で必死に結果を求める投手陣には「ランク付けってやっぱりするじゃないですか。これが大事。ランク的に育成選手の中でも(投手の必要性はチームとしても)上なので。一皮むけてファームで無双するのなら、大いにチャンスはあります」とキッパリと言い切った。
今後、ファームとの大幅な入れ替えを行うこともあるだろう。入れ替えの基準について指揮官は「野手の場合は、レギュラー陣で出ている選手たちが安泰であれば、控え(として能力を発揮する)選手を置いています。ここは競わせないといけないっていう時、状態が悪いから代えようかという時はファームで頭から出ている、出られる選手を呼びます」という。まずは柳田ら、レギュラー陣の状態が落ちてくるかどうか。そして「競争させたい」と思えるほど、ファームで状態を上げる選手が出てくるかどうかが鍵になりそうだ。
現役時代には通算413本塁打を放ち、ミスターホークスと呼ばれた。圧倒的なリーダーシップで選手の先頭に立ってきた一方で、2軍監督に就任してからはZ世代の若鷹たちとの距離感を経験した。「やっぱり1軍と2軍は同じソフトバンクでも微妙に違う」。“今の子”という選手たちと向き合う中で、指揮官自ら「僕が去年思ったのは……」と切り出してきた。
「2軍の選手が1軍と同じように(1軍の勝敗に)一喜一憂していたんですよね。実は『アホちゃうか』って思って(笑)。お前ら、出番なくなるでって思っていました。2軍の選手って、1軍の状態がいいとなかなか上には上がれない。心の中では、1軍の状態が悪い時は『チャンスだ』と思えるように。それで『1軍なんか負けたらいいんだ』と口に出したり、外でそういうことはしちゃいけないですよ。それは人として。でも本当に狙いたいのなら、意外にそういうところがガツガツしていないなっていうのは感じました」
自分がポジションを掴むということは、誰かのポジションを奪うということ。それがプロの世界だということは、小久保監督が一番よく知っている。栄光を味わわせ、逆境を乗り越えていける若鷹を育てていきたい。次回は、首位を走るここまでの戦いを振り返り「めちゃくちゃ大きい」と絶賛する選手の存在に迫っていく。
(竹村岳 / Gaku Takemura)2024.04.22