2軍戦でプロ初登板 自身の2失策からみ1回2失点も…松山監督は高評価「大したもん」
ほろ苦いデビュー戦でも、大きな収穫があった。ソフトバンクのドラフト1位ルーキー・前田悠伍投手が20日のウエスタン・リーグ広島戦(タマスタ筑後)でプロ初登板を果たした。7回に2番手として登板。自らのベースカバーのわずかな遅れで先頭打者の出塁を許すと、続けざまに2失策を重ねるなどして1回2安打2失点(自責0)の内容。最速は141キロをマークした。18歳は悔しさをにじませながらも、高校野球とプロとの明らかな差を体感できたことをプラスに捉える“たくましさ”も見せた。
「ピッチャー、前田悠伍」。2軍本拠地にアナウンスが流れると、降りしきる雨の中でその瞬間を待ち望んでいた多くのファンから大きな拍手が送られた。舞い上がってしまいそうな状況でも、18歳はポーカーフェイスを崩さない。先頭の大盛穂外野手への初球は外角にわずかに外れボール。2球目は大きく高めに外れた。雨でぬかるんだマウンドで見せたのは高い修正力だった。
3球目の140キロ直球を外角に決めると、続けてスライダーでファウルを打たせて並行カウントに持ち込む。5球目のスライダーは外角低めに外れたが、ここから3球続けて真っすぐをストライクゾーンに投げ込んだ。ファウルで逃れた大盛に対し、広島ベンチからは「前に飛ばせよ」の声が上がる。ドラフト1位とはいえ、高卒ルーキー相手にやられてたまるか——。そんな気迫を感じさせる「ゲキ」だった。
前田悠がプロのレベルを体感したのは、その直後だった。8球目のスライダーで相手を引っかけさせ、打球は一塁方向への平凡なゴロとなった。ベースカバーに入った左腕だったが、大盛が一足早く一塁ベースを踏んで記録は内野安打。登板後、記者の取材に応じた左腕は感じた「ギャップ」を率直に明かした。
「ベースカバーに関しては、自分が思っている(打者の)スピードよりも(相手は)1段階早いですし。高校の時はアウトにできていたタイミングだったんですけど……。さっき映像を見ると少し(カバーまでの走路が)膨らんでいるかなと」
大阪桐蔭高では全国制覇した2年春から3季連続で甲子園に出場。高校野球では最高峰のレベルで活躍してきても、これまで体感したことがないプロのスピード。時間にすれば“コンマ数秒”のミス。それがプロでは命取りになると身をもって感じさせられたプレーだった。
先頭打者に出塁を許した直後、にわかに雨脚が強まった。すぐさま、けん制を入れるも、これが悪送球となり走者は二進。さらに次打者の犠打を処理した際に一塁へ再び悪送球し、1点を失った(記録は犠打と失策)。2死後には2番の韮澤雄也内野手に138キロの直球を左中間に運ばれて2失点目。続く中村奨成外野手の打球も強烈なライナーだったが、左翼手の正面を突いて3つ目のアウトを奪った。マウンドでは表情を変えない左腕もうつむき加減でベンチに戻った。
2軍戦でプロ初登板 自身の2失策からみ1回2失点も…松山監督は高評価「大したもん」
雨の影響でグラウンドのコンディションは悪く、高卒ルーキーのデビュー戦としては劣悪な状況であったことは間違いない。それでも前田悠は弱音を吐くことなく、悔しさを押す殺すように言葉を発した。「ベースカバー1つ取っても課題が見つかったので。もっと細かいところまで練習していかなきゃいけないと今日は思えた。それが一番の収穫かなと思います」。
18歳の投球に周囲の評価は及第点以上のものだった。松山秀明2軍監督は「本当に初めてのプロ野球での登板だったので。その中でフルカウントから四球を出すこともなく、ストライクを投げ切れるというのは大したもん。本当に高校生離れしたものを持っているんじゃないかと感じましたよね」と強調。バッテリーを組んだベテランの嶺井博希捕手も「ボール自体は素晴らしいものを持っている。真っすぐが一番良かった」とうなった。
今回の登板は2軍帯同ではなく、あくまで参加。今後は再び体力強化に取り組みながら、機を見て2軍で登板する方針だ。「お試し」の感も強かったプロ初登板だったが、自らの手で持ち帰ったものは、この世界で生き抜くために不可欠な“気づき”。プロ野球選手・前田悠伍にとって実り多き21球だったに違いない。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)