育成契約の3選手にとって、貴重な機会となった。1か月に及ぶ宮崎春季キャンプが終わり、福岡に戻っての束の間のオフ。支配下選手登録を目指す中村亮太投手、佐藤宏樹投手、小林珠維投手は“ある先輩”に誘われて食事に出かけた。「貴重な話を聞かせていただきました」。3人は口を揃えて、その夜のことを振り返った。
3人を食事に誘ったのは又吉克樹投手だった。キャンプで同じA組だった中村亮にLINEが入った。「ご飯行こうよ」。突然の誘い。「せっかくなら4人ぐらいで行こう」。中村亮が小林と佐藤宏に誘いをかけた。小林と佐藤宏にとって、又吉と食事をするのは初めての機会。緊張しつつも、小林は「嬉しかったですね」と振り返る。
プロ野球選手の夕食らしく、出かけた先は焼肉店だった。佐藤宏は「良い肉を食べさせてくれました。美味しかったです。育成の3人でご飯5合くらい食べました」と明かす。気さくな人柄の又吉だけに「又吉さんも『好きにしていいよ』みたいな感じだったんで、そんなガチガチに固まるような会じゃなかったし、居心地が良い会だった感じはあります」(佐藤宏)とリラックスした会になった。
自然体で臨めたとはいえ、野球選手が4人集まれば、当然、会話の話題は野球へと向いていく。その会話の中で、中村亮、佐藤宏、小林とそれぞれの胸に響いた言葉があった。
「物として残す」意義を感じたのは中村亮だ。又吉はシーズンごとの記憶、記録として「時計」を購入するようにしている。そして、後輩たちが節目の時を迎えた時には、プレゼントを贈っている。
中村亮も2022年に支配下選手登録された際、財布をプレゼントしてもらった。ただ、そのオフに戦力外通告を受けて再び育成契約に。「また育成に戻って『今何してんだ!』『もっと頑張らなきゃ』っていう風になれている。物に残したことによって、モチベーションにもなれているのかなっていう風に思います」。財布を見るたびに、悔しさが甦るという。
「又吉さんは『プロ野球選手って長くても15年ぐらい。人生の中の10年、15年って忘れることも多いけど、物に残したらなんでも思い返せるから、物をあげたりしてる』って言っていました。確かにいいなと思いますね。又吉さんは男らしいですね」。ホークス内でも後輩の記念のタイミングにプレゼントを贈る選手は多い。それも若手たちのモチベーションに繋がる。
メンタルの持ち方について考えを改めたのは佐藤宏だった。「上のレベルの人はこういう考え方をしているのかと知れました」。佐藤宏はどちらかといえば、自分はネガティブ思考だと分析する。「キャンプでもA組に上がらなきゃ、B組で結果を残さなきゃ、ということだけ考えていて、結局、蓋を開けてみたら、後半になるにつれてダメになった。心に余裕がないなっていうのはすごく感じた」。そんな心中を“気楽”にしてくれたのが又吉の言葉だった。
「お前ら若いんだから、まだまだ何年も野球できるチャンスがある。今、頑張れば、絶対に報われるから! 俺はもう引退に向かっているけど、お前らはまだ可能性しかないから」
精神面についてもさまざまな話を聞いた。感じたことは「考え方がやっぱり自分は浅いなと思いました。自分を追い詰めて頑張って結果を出せる人ならいいですけど、自分はどっちかというとヤバいヤバいと、なっちゃうタイプ。そんなに深く考えなくても、死ぬわけでもないし もっと楽に考えていこうかな」ということ。考え方を変えてみようと思った。
2019年ドラフト4位で、支配下選手登録でプロの世界に入った小林は「1軍に行くことが全てなんじゃないかなって思います」と感じたという。又吉は四国ILの香川からプロ入りした苦労人。「ホークスだけじゃなく、いろんな球団に行って、いろんな経験をしてる人の言葉ってやっぱり大きいなと思いますし、重いです」。中日を含めた10年のキャリアの話を聞き、より1軍への思いが強くなった。
「支配下になるのが目標ではなくて、1軍で投げるのが目標。支配下は後からついてくる感覚でいます。支配下になって、2軍止まりの選手もたくさん見てきましたし、『支配下になります』っていう記事もよく見ますけど、響きも良くないですし、どうなのかなって正直思っているので」。独立リーグからプロの世界へ飛び込み、第一線で活躍してきた又吉の存在。「僕も又吉さんみたいに這い上がれればと思います」と、大いに刺激になった。
「絶対に関わっていないだろうっていう3軍、4軍選手の特徴だったりとかも知っている。これからのホークスっていうのも考えて動いてくれる。普通は自分で精一杯なはずのに、周りを見ていて、SNSもすごいですし、又吉さんを嫌う人いないんじゃないかなっていうぐらい、ほんとに人当たりの良い人。人間としても野球人としても尊敬しています」。これまで何度も食事を共にしてきた中村亮は改めて又吉を表現する。貴重な機会となった“又吉会”。支配下選手登録を狙う育成トリオの新たなモチベーションになったに違いない。