“封印”したMLBへの思い…2年の契約延長の舞台裏 スチュワートが明かすホークスへの「恩返し」

ソフトバンクのカーター・スチュワート・ジュニア【写真:竹村岳】
ソフトバンクのカーター・スチュワート・ジュニア【写真:竹村岳】

今年の1月8日に球団から2年の契約延長が発表…単独取材に語った舞台裏とは

 2024年の戦いを前にして、なぜ契約を延長したのか。ソフトバンクが宮崎の生目の杜運動公園で行っている春季キャンプは6日、第2クール1日目を迎えた。カーター・スチュワート・ジュニア投手がブルペン投球を行い、鷹フルの単独取材に応じた。語ったホークスへの「恩返し」――。その言葉の真意、新しく2年契約を結んだ舞台裏に迫った。

 2018年の全米ドラフトで1巡目指名を受けたものの、身体検査で異常が見つかったため合意には至らず、2019年5月にホークスと6年契約を結んだ。MLBドラフトで1巡目指名を受けた若き才能が海を渡ってくることで、多くの注目を集めた。その力の片鱗が、昨季ようやく開花。14試合に登板して3勝6敗、防御率3.38。間隔を空けながらもローテーションを守り、クライマックスシリーズでも先発を経験した。

 シーズンを終えて帰国。そして、1月8日。球団から2年の契約延長が発表された。2019年から始まった6年契約は今季が終わった段階で切れるが、なぜ2024年の戦いを待たずして、延長に踏み切ったのか。ホークスには、自分が成長できる全てが整っているからだ。

「本当に楽しみです。今シーズンを入れて、あと3年ホークスで野球ができることがすごく楽しみです。契約を延長することで野球だけに集中できる。(要因は)環境ですよね。チーム(ホークス)が常に改善しようとして、もっと上を目指そうとしているところです」

 今年の11月に25歳となる。新しい2年契約を終える時には27歳と、これから投手としてさらなる成長曲線を描き、脂が乗り切っていくであろう年代を、ホークスで過ごすと決めた。あえて他の選択肢を“閉ざした”ことも「環境というところですね。チームメートや監督、コーチ、仲良くなったじゃないですけど、長い間一緒にプレーができているので、環境が一番でした。あとはホークスというチームが、常に優勝争いをしているチーム。優勝を毎年狙う中で、そこに貢献したい思いが強かったので延長しました」と舞台裏を明かす。

 昨シーズンまでは、1軍登板は2021年のみ。2023年の年明けも米国で体幹周りを痛めてしまうなど、決して万全なスタートではなかった。少しずつ6年契約が終わりに近づくにつれて、心境の変化もあったそうで「心配はしていなかったですけど、正直に言うと気にはしていました」と本音を明かす。いつクビを切られるかもわからない世界。複数年の契約があることで「集中できる」と表現し、「毎年、1年ずつを大切にして全力でプレーするのがプロ野球選手の仕事」と強調した。

 2023年は自己最速の160キロも計測するなど、荒削りながらも、秘めた才能はまさに“桁違い”だ。日本で大きな成功を収めれば、さらに大きな舞台でプレーしたい欲求も出てくるだろう。スチュワートは「もちろんアメリカにいつか戻りたい思いもある」と吐露。その上で「今自分にとって、野球選手としてホークスであと3年、プレーすることがいい環境だと思った」とも。自分のベストなパフォーマンスを発揮するために、何より投手として成長していくために、新しい2年が必要だった。

 他にも「福岡の街も、東京と比べると、個人的には福岡という街がすごく合っていると思っている」と、プライベートでの過ごしやすさも決断に繋がったという。今季から4年契約を結んだロベルト・オスナ投手も「日本という国がとても素晴らしい」と、残留の大きな要因を挙げていた。スチュワートも「福岡が大好きです。家族とか友達も、結構来やすいところでもあるので、自分にとって合っている」とうなずく。チームの優勝に対する“渇望”も、福岡のファンが作ってくれる雰囲気も、全てをもう愛してしまっている。

 2018年、ブレーブスのユニホームに袖を通すまであと1歩というところで、契約は頓挫した。18歳にして、1度は戦う舞台を失ってしまった過去がある。そこで手を差し伸べてくれたのがホークスだった。「この3年間でできるだけ活躍して、恩返しというか。19歳の時にホークスという球団は私にチャンスをくれたので、どうにかファンの皆さんの期待に応える活躍がしたい」。スチュワートを突き動かすものは、誰よりも高い向上心と、真っ直ぐな忠誠心だ。

 米国にいる家族とも「これで2年延長することで日本で8年過ごすことになるので、もちろん相談しました」という。様々な意見に耳を傾けて、自分自身の新しいキャリアを決めたのだった。契約に関する背景を踏まえ「とにかく10勝以上というところと、1軍でずっと投げ続けることです」と誓う。精悍な表情は、1人の立派なプロ野球選手だった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)