2005年からワクチン寄贈を続け「HEROs AWARD 2023」を受賞
社会貢献活動を通じて、確かな姿勢を感じ取れた。ソフトバンクの和田毅投手が「HEROs AWARD 2023」を受賞した。日本財団がアスリートやスポーツに関する社会貢献活動の優れたロールモデルを表彰する賞で、和田は2005年から自身の成績に応じて、発展途上国へのワクチン寄付活動を継続してきた。人それぞれの活動がある中で、和田は大谷翔平投手(ドジャース)からも刺激をもらっている。大谷のグラブ寄贈に、社会貢献の“あるべき形”を見た。
幼少期から、いつかは自分が働いたお金で社会貢献がしたいという気持ちがあった。様々な方法がある中で、ワクチンを選んだ決め手は「子どもが1日8000人亡くなっているっていうのが、やっぱりインパクトを受けました」と言う。未来ある子どもたちが、命を落としている現実を知ったからだった。活動を始めて、和田なりに考える“あり方”は、人それぞれであることだった。
「僕はそれ(ワクチン)に興味を持ったので、やらせてもらっています。興味を持った人がいれば『一緒にやりませんか?』という感覚です。僕が引っ張って『一緒にやりましょう』とか、そんな固くはないです。だから、自分は人に強要しないし、自分が興味を持ってやり始めたことなので。僕も興味を持った1人ですっていう考え方ですね。自分がしたいと思えばやればいいし、何か違うなと思ったらやらなくていいと僕は思っています。そこに『なんでしないの?』っていう感情は一切ないです」
駅前で募金活動を見かけたとしても、胸を打たれる人もいれば、何も感じない人もいる。興味を抱かない人に呼びかけることを和田は「それはもう興味があるか、ないかのことですから。野球を知らない人に、野球やってくれよって言っているのと同じ」と表現する。誰かのためになる1つの行動も、尊重されるべき人それぞれの意思。自分なりの正義感を抱いて動いたのであれば、それはもう立派な社会貢献の1つの形だ。
6万個のグラブ寄贈を発表した大谷に「すごいこと」
エンゼルスをFAとなりドジャースへの移籍が決まった大谷は11月9日、日本の全小学校に計6万個のグラブを寄贈すると発表した。形は違えど、この社会貢献には和田も「大谷翔平という選手から野球道具が送られてきた。それが一番大きなこと」と感嘆する。MLBで2度のMVPにも輝いたスターからの“プレゼント”。「野球の裾野を広げるのももちろんですけど、メジャーでもすごい選手で、国民的なヒーロー。野球を知らない人でも知っていると思う。そんな人から贈り物が届いたんですよ、すごいことじゃないですか」と語る表情は野球少年のようだ。
ルールさえ知らなかった子どもが、野球に触れる機会も増えるはず。「使うも飾るも、みんなで写真を撮るのも、それは小学校の使い方次第」と想像を膨らませる。さらに「形としてはグラブですけど……」と切り出すと、寄贈という言葉以上の意義を、和田なりに語った。子ども1人の人生を大きく変えてしまうような、大きく、夢が膨らむ影響だ。
「もしかしたら、野球を好きになる子もいるだろうし、メジャーの試合を見に行こうか、とか。今まで見ていなかったけど、メジャーの試合を朝早く起きて見てみようかなとか。それをきっかけに、もしかしたら、今まで話さなかった子たちが話すようになるかもしれない。キャッチボールをすることで仲良くなるかもしれない」
さらに和田は、真顔でこう続ける。「グラブのおかげで結婚しましたっていう人も出てくるかもしれない。女の子と『大谷選手好きなの?』って話で仲良くなって、私たち結婚しましたってあるかもしれないじゃないですか」。別々の小学校だとしても、この3つのグラブがきっかけで大谷のファンとなった男女がいつか出会い、結ばれるかもしれない。「そこで恋が芽生えるかもしれない。これはゼロじゃないです」と、夢と希望を受け取った子どもたちの未来を和田も楽しみにしている。
対戦は2016年のみ…「14の7、5割打たれてる」も少し誇らしげ
和田はワクチンという直接的なアプローチで、子どもの命を救うためにも腕を振る。大谷はグラブと、お互いの違いはあるものの、形以上の思いを届けようとしていることは共通している。「形としてグラブであっただけで、キャッチボールしてくれたら一番でしょうけどね。もし僕が子どもで大谷選手からグラブが届いたら、飾りますよ」と日米通算163勝の左腕ですら欲しがるプレゼント。もらった子どもたちの気持ちを考えれば、大谷の寄贈の意義はとてつもなく大きなものだっただろう。
対戦したのは、大谷がパ・リーグMVPに輝いた2016年のみ。和田も15勝で最多勝を獲得したが、大谷には2本塁打を浴び「14の7、5割打たれてる」と苦笑いする。2018年から海を渡り、世界を代表するプレーヤーとなった。「メジャーであれだけ活躍している選手をね。あれだけすごい選手を7回も抑えて、14の14じゃないだけで十分です(笑)」と、また笑顔で語った。
(竹村岳 / Gaku Takemura)