取り返したくとも取り返せない、苦い記憶だ。ソフトバンクの有原航平投手は今季、チームの大黒柱として奮闘した。開幕は2軍で迎えたものの、6月に1軍初昇格を果たすと、そこからは大車輪の活躍を見せた。17試合に先発して10勝5敗、防御率2.31。チームでただ1人、2桁勝利を達成した。
「勝ちはチームにつけてもらうものだと思っているので、運が良かったなと思っています。平均して長いイニングを投げられた試合は多かったなと思いますけど、その中で完投が1つだけだったのでそこを増やしていきたいと思っています」。17試合で120回2/3を投げ、1試合平均7イニング超え。たとえ大量点を失ったとしても、立て直して長いイニングを投げる、そんな試合もあった。
「やっぱり頓宮選手のホームランですかね。確かPayPayドームで初回に3ランを打たれたんですけど……」
8月30日、本拠地で行われたオリックス戦のことだ。首位のオリックスとの直接対決第2ラウンド。同29日の初戦に7-0で快勝し、一気に連勝といきたかった試合で、試合開始直後にチームを劣勢に立たせてしまった。
初回、先頭の池田を右前打で出塁させる。宗、中川を外野フライに打ち取って2死としたものの、4番の森を四球で歩かせた。2死一、二塁で打席にはパ・リーグの首位打者になった頓宮を迎えた。その初球が悪夢の1球になった。
外角低めを狙ったフォークが真ん中付近へと入っていった。快音を響かせた打球は、高々と舞い上がり、左翼スタンドへと消えた。初回にいきなり3点のビハインドを背負う先制3ラン。痛恨の一打を浴びた有原は2回にも宗の適時二塁打などで3失点。3回には頓宮に2打席連発のソロを浴びた。この日は7回途中まで投げて8失点。チームは敗れた。
「変化球にしろ、真っ直ぐにしろ、失投をしっかり捉えられている。特に大事な試合で、ああいうホームラン打たれると、流れがあってそれで試合が決まっちゃうことが多いと思う。来年はそういう失投を少なくするというか、大事な試合で流れを持ってこれるような投球をしたいなと思います」
投手にとって失投は付きものだ。全てのボールが狙ったところに行くわけはない。問題となるのはその“失投の仕方”。失投もボール球になったり、逆球でもゾーンの際どいところにいけばいいが、甘く入って相手に痛打されるのは極力避けねばならない。大事な試合で“やってはいけない失投”をしたからこそ後悔が残った。
この時のオリックス戦だけでなく一発に泣かされたシーズンでもあった。「今年はホームランをすごく打たれているなっていう自覚もありますし、数字も出ている」。17試合で13被本塁打。9イニングあたりの被本塁打を示す「HR/9」という指標は0.97。パ・リーグで80イニング以上投げた先発ピッチャーで7番目に悪い数字で「なんとしても防いでいかなきゃいけない」と課題として痛感している。
すでに来季の開幕ローテーション入りは内定しており、小久保裕紀新監督から直々に大黒柱として通達もされた。「任されているので、本当にやるしかないと思っています。身が引き締まる思いはあります」。来季掲げる目標は180イニング。それを成し遂げるためにも、不用意な一発は避けたいところだ。