ファンの方々に伝えたい感謝の思い 苦しい時期に胸を打たれた優しい言葉
ソフトバンクは17日に秋季キャンプを打ち上げた。投手は筑後、野手は宮崎という球団初の取り組みとなった縦割りキャンプ。オフシーズンとなれば、ファンとの交流も減ることになる。キャンプ最終日、筑後で手締めを終えて、投手陣はミーティングを実施。帰路に就く選手もいる中で、ファンのもとに出向いたのが板東湧梧投手だった。板東にとって2023年が、ファンの存在の大きさ、大切さを痛感させられるシーズンだったからだ。
秋季キャンプ中から、球団が主導する即席のサイン会にも参加していた。その日以外でも、ファンの方々から「サインをもらえました」という声、投稿を何度も見たことがある。それだけに、最終日も数十分に渡ってサインを書くなどファンサービスをする姿は改めて印象に残った。5年目のシーズンを終えた今、ファンの方々に伝えたい感謝がある。
「今まではプロに入って当たり前にチヤホヤされてというか、いろんなファンの方に応援してもらえて、あんまり考えたことがなかった。でも、いざ仲間が引退したり、クビになったり、本当に自分のことのように感じた時に、こうやって応援してもらえることってすごくありがたいというか。自分が苦しい時もたくさんの方に『頑張って』とか、SNSでもそういうメッセージをもらったりするんです。そういう時に本当に救われるというか、ファンの方がいないと僕らの職業は成り立たないんだなって」
板東は今季30試合に登板して5勝4敗、防御率3.04だった。初先発は20試合目の登板となった6月15日のヤクルト戦(神宮)で、11度の先発機会で3勝4敗。自分の居場所を確立するにはもう一歩が足りないようなシーズンだった。ずっとやりたかった先発を任されるようになっても、笑顔よりも苦悩の方が長い期間だっただろう。そんな時だからこそ、ファンからの優しさが胸に刺さった。何度だって自分を奮い立たせてくれる言葉だった。
「単純に誹謗中傷はこの世界ならいくらでもあるんですけど、そんな時でも応援してくれる人がいるということを、感じたんです。それは本当に支えになるというか、気づかせてくれた出来事でした。『こんな時でも応援してくれるんや……』って。情けないピッチングをした後でも、そんな時でも『頑張っていること知っているからこれからも応援します』って(メッセージを)見た時、すごく嬉しかったんです」
今の環境が当たり前ではない。板東にとってそんなことを痛感する出来事が、11月6日に球団から発表されたトレードだ。同級生の高橋礼投手と、同期入団の泉圭輔投手が巨人に移籍。「自分も人的補償だとか、現役ドラフトで、いつそうなるのか、わからない。仲良かったメンバーがいなくなるのが、今年は多かったですから……。『バリバリやっていた泉が……』って思いましたし、もうそういう年なんだなって」。プロ野球選手なら当たり前の現実を、肌身を持ってして感じた。来年自分がどのチームのユニホームを着ているのか、そもそもNPBにいられるのか――。誰にだってわからない。
「野球ができたらまだ幸せですよね。野球という職業がなくなった時に、自分は何をするんだろう……って、本当に感じました」
高橋礼は専修大時代から「侍ジャパン」に選出もされ、2019年には12勝を挙げて新人王に輝いた。板東にとっては、1年目だった同年。同期入団で指名された支配下の投手の中で、自分だけが1軍登板がなかっただけに、2019年は今でも忘れられない年だ。「礼は同級生ですけど、遠い存在だった1人。でもプライベートでもゴルフしたり、親しくなってきたところだったので寂しいですし、これからも切磋琢磨したかった1人です」と移籍を噛み締める。今季は開幕ローテの“最後の椅子”をかけて競争した存在でもあった。
同期入団の投手で、最初に白星を挙げたのは甲斐野央投手。その次が、泉だった。2019年4月22日のオリックス戦で、板東も「泉は僕にとって近い存在でしたね。プライベートでも仲良かったですし、1年目から一緒にいました」と懐かしむ。食事もゴルフも、何度も一緒に行った。「本当に切磋琢磨した仲だと思いますし、自分よりも先に活躍していた選手で、自分のライバルでもあった」。通算118試合登板、年下ではあっても、泉は自分が追いかけてきた存在でもあった。次会う時は必ず、勝敗を背負った1軍のマウンドだ。
「野球を続ける以上は、悲しいことではない。負けないようにというか『また日本シリーズの舞台で』だとか、そんなふうに思います。(2人のトレード、同級生が3人チームを去ることになったのは)プロ野球選手というものを感じた出来事だったので。本当に一瞬一瞬、後悔のしないようにやらないといけないと思いました。超一流の舞台でまた戦いたいと思います」
同級生の上林誠知外野手、椎野新投手は戦力外通告を受けた。同じく同期入団の奥村政稔投手もユニホームを脱ぐことになり、身近な選手が少しずつホークスを、現役を去ることになっている。ずっと現役でいられるプロ野球選手はいないからこそ、一瞬一瞬が尊い。2024年、板東湧梧が結果でファンに恩返しする姿が見たい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)