ほとんどのプロ野球選手にとっていつか訪れる瞬間ではある。所属球団から来季の契約を結ばない旨を伝えられる戦力外通告。1度ならまだしも、それを複数回味わう選手は少ない。かつて2度の通告を受けたソフトバンクの渡邊佑樹投手は、このオフに2度目の通告を受けた古川侑利投手への思いを語った。
渡邊佑にとって、古川は楽天時代からのチームメート。渡邊佑はトライアウトを経て育成選手で、古川は現役ドラフトで、ホークスに入団し、奇しくも再び2人はチームメートになった。通告を受ける直前まで古川は、渡邊佑と共にフェニックス・リーグに参加していた。球団から連絡を受けて21日に帰福する直前、渡邊佑は「ちょっと呼ばれたわ」と古川から報告を受けていた。
「こういう世界だから、それ(戦力外)はしょうがないですよね。お互い何回も経験していますし。(古川は)野球を続けたいと言っていたんで、お互い頑張ろうなっていうそれぐらいですかね。まだ、そんな深い話はできていないです。(ホークスに来て)最初誰も知らない中で、古川がいたのは心強かったです。古川の分までってわけじゃないですけど、僕もそういう時がいつ来るかわからないので、1日1日を無駄にしないように頑張っていければなと思います」
2017年のドラフト4位で横浜商大から楽天に入団した渡邊佑は2020年オフに一度、戦力外通告を受けた。この時は育成選手として再契約を結び、2021年3月に支配下に返り咲いた。だが、2022年終了後に再び戦力外になった。2度経験した戦力外通告だが、捉え方はマイナスばかりではないという。
「僕も2球団目ですけど、いろんな人に会えるのは結構、自分の中で勉強になりますし、いい経験になっていると思います。そんなに後ろ向きに捉えないで、次もあるって信じてやってくしかないと思うんで、アイツも」。野球を続けたいと邁進し続ける限り、新たな場所で新たな出会いがある。古川にとって、新天地が見つかれば、そこは5球団目。クールに語る渡邊佑の言葉の端々には厳しい世界で戦ってきた経験値と決意、優しさが滲んだ。
そんな渡邊佑は、野球を辞める決意を固めたことがある。2022年オフに楽天から2度目の戦力外通告を受けた時には引退して就職することも考えた。ソフトバンクからのオファーで現役を続けるチャンスを得た今季は、ラストチャンスと捉えて日々を過ごしてきた。
「来年もあるとは思わないでやってきましたし、年齢もそんなに若くない。1年勝負っていうのは自分の中であったんですけど、(来年も)契約してくれるのであれば、頑張らないといけない。そこは1年1年、しっかり頑張ろうと思っています」
加入1年目の今季は、左サイドスローとして期待されたものの、シーズン中に支配下契約を勝ち取ることは出来なかった。シーズン前半はなかなか納得いく投球ができず、3軍戦でマウンドに上がることがほとんどだった。季節が変わるとともに徐々に状態を上げ、終盤は再び2軍へ。フェニックス・リーグでもマウンドに上がり、来季に向けて自信を深めている。
「前半は上手くいかないことが多かったですけど、後半はだいぶ(良くなった)。来年に向けて、やっていけるなという形はできてきたので、それを来年頭から出していければと思います。対バッターと100パーセントに近い形で勝負できるようになった。前半はどうしてもストライクが入るか入らないか、とかで自分と戦っていたんですけど、相手と勝負できるようになったっていうのが大きい。左バッターに対しても結構自分の中で自信がつきました。夏以降、左バッターに対しては、とりあえずこのまま行けば通用するかな、と」
小久保裕紀2軍監督も変化を感じていた1人だ。フェニックス・リーグ中に「めちゃくちゃ良くなりましたね。スライダーが良くなった。スライダーが駄目だと使えなかったんですけど、すごい良くなって、右(打者)にはちょっと特殊球があるんで、右も結構、抑えられるピッチャー。面白いと思いながら、8月、9月の状態だったら支配下になってもおかしくないぐらいのピッチングはしていましたね」と高評価していた。
長らく“左キラー”として君臨していた嘉弥真新也投手が戦力外となり、渡邊佑には“ポスト嘉弥真”としての期待もかかる。この秋は肉体面で体力強化、技術面では制球力アップをテーマに掲げ、精力的に汗を流す。掴んだホークスでの2年目のチャンス。渡邊佑は再びラストチャンスの覚悟で腕を振る。