武内夏暉は逃したけれど「90点」 近年の“素材型”とは一転…感じ取れた明確な狙い

ソフトバンク・小久保裕紀監督【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・小久保裕紀監督【写真:藤浦一都】

今年の戦いで浮き彫りになった課題は投手と大砲

「我々にとっては思い描いていたドラフトができたと思います。90点でもいいかな。ほぼほぼ上手くいったんじゃないかと思います」

 15選手の指名を終えたホークスの永井智浩編成育成本部長兼スカウト部長は笑みを浮かべながら、こうドラフトを総括した。26日に都内で行われた「2023年プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」で、1位の前田悠伍投手(大阪桐蔭高)ら支配下7選手、育成8選手を指名。即戦力投手を中心とした、ここ数年とは様相の異なる、今年の狙いが感じられる指名となった。

 事前に公表していた通りに1巡目はまず、國學院大の武内夏暉投手に入札した。西武、ヤクルトとの競合となり、抽選で外すと、外れ1位で前田に入札。再び楽天、日本ハムとの3球団競合となったが、2度目の抽選となった小久保裕紀新監督がクジを引き当て、高校生ナンバーワン投手との交渉権が確定した。

 4年連続で1位は高校生となったが、過去3年の“素材型指名”とは意味合いが若干異なる。小久保監督は「高校生の中ではダントツのナンバーワンという評価を聞いています」との口にした上で「4月からというのは考えないと思いますけど、比較的、球団が管理した中でゴーサインが出れば、1年目の後半ということも十分考えられる力はあると思います」と、1年目から1軍の戦力になり得る存在だと語った。

「ポイントはもうピッチャーなんで。スカウトの方にご判断はお任せしていますけど、おそらく即戦力の投手を取ってくれるだろうと思っています」

 1位指名を終えて宮崎へと戻るためにドラフト会場を離れた小久保監督の言葉通り、今年の方針は明確だった。今季は先発投手で規定投球回到達者はゼロ。2桁勝利も有原航平投手ただ1人と、先発投手が穴となった。救援防御率2.68はリーグトップながら、先発不足でリリーフに負担をかけたのは否めない事実。先発を中心として投手陣を厚くさせる必要があった。

 2位では「侍ジャパン大学代表」にも選ばれた名城大の岩井俊介投手を指名。最速156キロの球速はもちろん、真っ直ぐの回転数が2780回転という驚異的な数値を叩き出す右腕で、永井本部長も「能力の高さを評価しました。いい選手を取れました」と評価した。4位でコントロールを武器とする明大の村田賢一投手、5位でロキテクノ富山の澤柳亮太郎投手、6位で東日本国際大の大山凌投手と、大卒・社会人から4人の投手を指名した。

「やっぱりピッチャーっていうところは、王会長からもこのドラフトで強化しましょうというところがあった」と永井本部長は説明する。今季の戦いぶりを見れば、やはり強化すべきは投手。しかも、近年の将来性重視ではなく、目の前にある2024年シーズンから即戦力として期待できる投手をチームに加えることが、このドラフトでは最大の目的だった。

 投手と共に、もう1つ、チームの課題となっているのが大砲の存在、特に右打者の長距離砲だ。長打を打てる右打者は積年の課題ながら、リチャード内野手をはじめ、なかなか台頭してこない現状にある。ホームランテラスのあるPayPayドームを本拠地にしながら、チーム本塁打数はオリックスの109本より5本少なく、永井本部長も「今年もなかなかホームランの数っていうのは思うようにいかなかった部分もある」と言う。

 そこで、3位で慶大の廣瀨隆太内野手に白羽の矢を立てた。東京六大学リーグで通算19本塁打を放ったスラッガーで、永井本部長も「今年の中では1番飛距離が出せるバッターということで評価していた」という。もっと上位で消えると見ていたようで、3巡目まで残っていたことに「あの順位ですごく巡り合わせがあったので、もしかするとそこまで残ってないかなとは思っていた」と、驚きの指名成功だった。

 支配下では2位から6位までの5人が大学・社会人で、1位と7位の藤田悠太郎捕手(福岡大大濠高)だけが高校生。近年、貫いてきた素材型ドラフトとは異なる方針となった理由について、永井本部長は「チーム事情もありつつ、ドラフトの市場というのもあるかな、と思います。大学生にいい選手がいたっていうところですね。スカウトの中でも来年の大学、社会人の市場でいうと、今年ほどはいないんじゃなかろうか、というところもあった。その辺も含めて、せっかくいい素材がいる年に、大学生にいっておこう、みたいなところはありました」と明かす。チーム事情に加え、大学生・社会人に好素材がそろった今年特有の事情もあったという。

 育成ドラフトではルートインBCリーグ・福島レッドホープスの大泉周也外野手や九州国際大付高の佐倉俠史朗内野手といった大砲候補ら、例年よりはやや少ない8人を指名した。3年連続でリーグ優勝を逃し、近年ドラフトで指名した若手がなかなか台頭していない現状にあるホークス。武内こそ逃したものの、現実を踏まえた、地に足をつけたドラフトになったのではないだろうか。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)