窮地を救った有原航平の凄さと勝てる理由 斉藤和巳投手コーチも認めた“1個の四球”

ロッテ戦に先発したソフトバンク・有原航平【写真:荒川祐史】
ロッテ戦に先発したソフトバンク・有原航平【写真:荒川祐史】

4回先頭のポランコに対して不用意にストライクゾーンに投げず四球を与えた

■ソフトバンク 3ー1 ロッテ(15日・ZOZOマリン)

 崖っぷちで踏みとどまった。15日にZOZOマリンスタジアムで行われた「パーソル クライマックスシリーズ パ」ファーストステージのロッテ戦。第1戦に敗れて王手をかけられていたソフトバンクは3-1で勝利し、1勝1敗のタイに戻した。追い込まれた状況でチームを救ったのは、先発マウンドに上がった有原航平投手だった。

 レギュラーシーズン最終戦となった10月9日のオリックス戦から中5日で上がったマウンド。1点を先制してもらった初回、1死から藤岡、角中に連打を浴び、ポランコの中犠飛で同点に追いつかれた。その後も毎回のように走者を背負ったが、守りにも助けられて切り抜けた。6回無死一塁の場面でも角中を空振り三振、甲斐拓也捕手が藤岡の二盗を阻止し、三振ゲッツーに仕留めた。

 6回をわずか72球で投げ抜き、5安打1失点。7回以降は鉄壁のリリーフ陣がリードを守って逃げ切り、有原は「初回、点を取ってもらったのに取られてしまったところは反省なんですけど、そこからゲームは作れたと思うので、良かったと思います。守備でも難しい打球もたくさんありましたし、チームに助けられた。最後の三振ゲッツーも、そこは拓也(甲斐)に感謝したいと思います」と振り返った。

 移籍1年目の今季は6月に1軍に初昇格すると、17試合の先発でチームトップの10勝をマークした。チームで2桁勝利を挙げたのは有原ただ1人。なぜ勝てるのか。この日の投球でも、それを象徴するかのような場面があった。

 2点リードで迎えた4回、先頭でロッテの主砲ポランコを迎えた場面だ。初球はカーブでストライクを取ると、2球目の真っ直ぐはボール。3球目のチェンジアップがファウルとなり、1ボール2ストライクと追い込んだ。ここからチェンジアップ、ストレート、そしてチェンジアップと全てワンバウンドのボール球になった。結果的には四球を与えて出塁させたが、この四球が“意味ある四球”だった。

 就任以降、“出していい四球”と“出してはいけない四球”について言及してきた斉藤和巳投手コーチは「あれは誰が見ても勝負にいっての四球だからしょうがない。先頭打者での四球は嫌な感じはするけど、アリ(有原)の中でもしっかり勝負にいってる。昨日も(ポランコに)打たれているし、今年も結構打たれている。ああいう中軸のホームランってのは一気に沸くので」と語り、あくまで勝負にいった中での四球だと見ていた。

 この場面で投手が絶対にやってはいけないのが、四球を嫌がってストライクゾーン内の甘いところに失投し、本塁打を浴びること。有原自身、今季、ポランコには10打数5安打、3本の本塁打を浴びていた。勝負の鉄則である“絶対にやってはいけないこと”を理解し、厳しいところ、厳しいところを突いた。

 有原自身もこう語る。「今まで結構打たれているので。それを考えながら、結果は四球になってしまったんですけど、自分で色々考えながら対戦して行けたかなと思います。(打たれたら)乗ってくると思うので、犠牲フライは打たれてしまいましたけど、ホームランは打たれなかったので、そこは成長かなって思います」。ポランコの一発。そこだけは避けなければいけなかった。

 淡々と、飄々と投げているような印象の強い有原だが、斉藤和コーチはそれとは“真逆”だと言う。「マウンド上でも、ベンチでもベンチ裏でも気持ちが入っているから。頼りになるよ。ウチの先発ピッチャーの中でも一番熱いものを持っているんじゃない? 全然ポーカーフェイスじゃない」。熱さの中でも、状況を冷静に見極め、押し引きのできる引き出しがある。百戦錬磨の有原の凄みなのかもしれない。

 この日は、わずか72球の球数でマウンドを降りた。斉藤和コーチは「周りが見てる以上に疲労感は絶対にある。そこは球数だけではわからない」と言いつつも「行ってもらわないとアカン」と、ファイナルステージに進出した場合、再び短い登板間隔での先発を示唆した。その姿は新たな鷹のエースの風格。今度は京セラドームのマウンドに立つ有原航平の姿が見たい。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)