若き日の自分の背中と重なったから、嬉しかった。9月23日のヤクルト-阪神戦(神宮)で、阪神の大竹耕太郎投手が8回3失点。12勝目を挙げると、ヒーローインタビューで「順位は決まっているので消化試合と言われるんですけど、人生で今日しか来られない人もファンの方の中にいらっしゃると思いますし、一戦必勝という気持ちで投げました」と発言した。その姿を喜んだのが、和田毅投手だ。
大竹は2017年育成ドラフト4位でホークスに入団した。昨オフに球界初の試みとなった現役ドラフトで、阪神に移籍。21試合に登板して12勝2敗、防御率2.26、タイトル争いに絡むほどの活躍で18年ぶりのリーグ優勝に貢献した。和田も「素晴らしいですよ。本当に素晴らしい」と見守っている。9月23日のヒーローインタビュー。和田が大竹の発言を喜んだのは、自分と同じ、プロとしての矜持を語ってくれたからだ。
和田は1年目の2003年から14勝を挙げて新人王に輝いた。ルーキーからホークスの柱になることを期待されて、それに応えるように自分自身を磨いてきた。そんな若手時代のある日の試合。「2年目だったと僕は記憶していますけど」。打たれて投げやりになっていたのかもしれない。マウンドで城島健司捕手(現会長付特別アドバイザー)に言われた。
「お前、テキトーに投げてんだろ。一生に1回しか球場に来られないファンの方もいるかもしれない。その人の気持ちを考えろ」
自分の気持ちを見抜かれ、ファンの存在を気づかせてくれる言葉だった。プロ21年目、42歳になった今も「めちゃくちゃ覚えています。マウンドで、普通にというか、怒られたので。プロ野球選手というのはどういうものなのか、すごくハッとさせられた出来事でした」と鮮明に記憶に残っている。自分が大切にしてきたプロとしての心構え。大竹が同じような発言をしたことは「そこまで“大竹マニア”ではないです(笑)」と知らなかったそうだが、後輩が自分の背中を追いかけてくれることを感じられて、嬉しかった。
「(大竹について)立派になりましたね。へへへ。でもそういう気持ちというか、そういうふうに思ってもらっているのは嬉しいことですね。ファンの皆さんもすごく嬉しかったんじゃないかなと思います。僕も城島さんに言われたことでもありますしね」
2022年から、大竹は和田のもとで自主トレを行なっている。「僕の失敗談でそんな話をしたかもしれないですけど、お酒の席で。でも僕がしゃべったのは覚えていない」という。大竹が、和田の経験と心構えを知って、その発言をしたのかどうかはわからない。それでも「彼なりになにか、どこかで、僕が言っていないにしろ、そういうふうに思っていることが嬉しいことですよね」と、喜びの言葉を続けた。
プロ野球選手にとって、言葉だって個性の1つ。オフならトークショーやイベントもあるが、シーズン中ならヒーローインタビューはファンの前で生の声を届けられる貴重な機会だ。和田自身も「そこもプロですからね。話せないよりは話せる方がいいと思いますし、慣れとか経験もありますけど。僕自身も最初は全然話せませんでしたから」と振り返る。「ファンの人にとっても『今日ヒーロー誰かな』『どんなこと話すのかな』っていうのも、球場に来る1つの楽しみだと思いますから」と喜ばせる大切な場所でもあると強調する。
「いろんなファンの方がいますからね。苦しい時も、そこはそこで叱咤激励じゃないですけど本気で声援をくれるファンの方もいる。そういう方も本物のファンだと思いますし、開場前から練習する姿を見に来ている人もいる。応援したいなって思ってもらえるようなプレーや姿、そういうのに値する選手になっていきたいなと思います」
9月23日、大竹の言葉を聞いたファンからは拍手が起きていた。今季の成績も踏まえつつ、和田も「本人の努力と、今年は絶対にやってやるぞ、と。現役ドラフトの成功例じゃないですけど、『現役ドラフトやっぱりダメなんだ』と思われたくない気持ちもあったと思う」と推察する。和田自身も今季はチーム2位の8勝。9日のオリックス戦(京セラドーム)でも登板を予定しており、あとアウト1つで7年ぶりの100イニングにも到達する。後輩の姿も刺激に変えながら、いつまでも自分が最高のお手本であるつもりだ。
2023年のレギュラーシーズンもあと1試合。今季を振り返りつつ、ファンの存在を「ビジターもそうですけど、やっぱりホームでのあの声援は、ホームっていうだけあるなって思います。家というか我が家というか。そういう気持ちにさせてくれる」と表現する。7日の楽天戦(楽天モバイル)で勝利し、クライマックスシリーズ進出は決まった。日本一の可能性がある限り、応援し続けてくれるファンを何度だって喜ばせたい。