昨オフの松田退団の舞台裏…和田毅は“知っていた” ホークスを去る決断を尊重した理由

ソフトバンク・和田毅【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・和田毅【写真:荒川祐史】

2022年にソフトバンクで43試合出場…オフに退団を選択、巨人に移籍した

 今でもホークスファンの記憶に新しい、熱男の退団。その舞台裏を語った。巨人は28日、松田宣浩内野手の現役引退を発表した。ソフトバンクの和田毅投手が、PayPayドームで行われた投手練習に参加。松田の引退を「僕自身も次に投げて怪我をしたら終わるかもしれない。こればかりはわからないですけど、寂しさはもちろんあります」と惜しんだ。

 亜大から2005年の大学生・社会人ドラフト希望枠でソフトバンク入りした。ルーキーイヤーの2006年、和田は当時4年目。ともに常勝時代を築き上げた。「入ってきた時は熱男って感じじゃなかったんですけどね。どちらかといえば目立つ方ではないというか」と懐かしむ。それでも、通算1832安打を放ち、プロ野球の顔となった後輩を「マッチほど存在感のある選手はなかなかいない」とどこまでもリスペクトする関係性だ。

 引退の一報は「昨日(27日)の夜に、ネットで」知ったという。松田はプロ生活18年のうち、17年をホークスで過ごした。ホークスでのラストイヤーとなった昨季は43試合出場にとどまり、打率.204。9月7日に来季の戦力構想から外れていることを告げられ、8日に登録抹消。21日、現役続行を希望して退団する意思を球団に伝えた。和田も、その葛藤を見守っていた1人だという。熱男退団の舞台裏を明かした。

「今年で退団することにしましたっていうのは聞いていました」

 松田は正式な発表よりも先に、退団する意思を柳田悠岐外野手や今宮健太内野手らには伝えていた。和田も、その1人だったのだ。「(PayPay)ドームでしたね。そこの選手ロッカーで」と場所もハッキリと覚えている。その時から「『40歳まで絶対にやりたいんです』っていうのは聞いていたので。彼が退団を決意した話を聞いた時は、彼も色々と考えて『40歳までは諦められません』と言っていた」と強い気持ちを持って、ホークスを去ったことも知っていた。

引退会見を行った巨人・松田宣浩【写真:小林靖】
引退会見を行った巨人・松田宣浩【写真:小林靖】

 松田にとって、それほどまでに大切だった「40歳まで現役」という目標。39歳だった昨オフ、戦力構想から外れたことでホークスでその夢を叶えることはできなくなった。絶対に消えないような、新しい伝統をホークスに刻み込んだ17年間。和田も2024年シーズンの現役続行には意欲を示しており、来年2月には43歳となる。40歳という節目は、自分も通った道。だから松田から退団する事実と、理由を聞いた時、力強く背中を押した。

「『大いにやるべきだって僕は思うよ』って話はしました。やっぱり本人にやる気があるうちは。僕も入団した時に40歳まで現役っていうのは思っていたので。マッチもそういうのがすごく強くて、2000本(安打という節目)もあったし。自分の中で納得せずに辞めたら絶対に後悔する。やれるんだったらやった方がいいと思うし。やらないで後悔するよりは、やった方がいい。『あの時ああしておけば……』って思うのは、僕は嫌なタイプですから」

 背中を押すことができたのは、和田自身も後悔しない選択をしてきたからだ。2011年オフに海外FA権を行使してメジャーリーグに挑戦したが、4年間で5勝。左肘の手術も経験するなど、思うように行かなかった年月であっても「今でも全く後悔していないです」とキッパリと言い切れる。「あの4年間は自分の人生にとっても大切な4年間だった。『あの時挑戦しておけば……』って野球人生を終えたくないと思ったので」と胸を張る。

 ホークスの構想外であることを踏まえ、最後は本人が退団を選択した。ファンと同様、選手にとっても衝撃的だったニュース。寂しさはもちろん感じつつ、その中で和田は「(本人が)まだやりたいって、ほしいと言ってもらえる球団があるのなら行くべきですし、やるべき。やらない方が不思議な感じがしますけどね」。気持ちに少しでも火が灯っているなら、挑戦するべきだと言う。だから2023年、新たな可能性に挑んだ松田の決断を、心から尊敬している。

「マッチの中にもそれ(40歳まで現役)が大きな目標になって、あと1年というところで昨年ああいう形になってしまった。僕自身でもそうなったら諦め切れないと思いますし、彼の決断っていうのは僕も尊重したいです。僕もその立場なら間違いなくそうしていたと思いますし。そこは、エンターテイナーであってもプロ野球人というか。プロ野球人、松田宣浩だったんじゃないかなって思います」

 この日の朝、電話で引退の報告を受けた。「40歳まではやりたかったと、そういう話を電話でもした。だから清々しい声だったのかな」。ずっと一緒に戦ってきた仲間が、また1人、自分よりも先にユニホームを脱ぐ。「誰しもが決断をしないといけない時が来る。その中で自分の口で辞めますと言えるのが本当に尊敬できるプロ野球選手だと思いますし、僕自身も、最後はそうなりたい」。自分自身が納得する瞬間まで、和田はマウンドで戦う。

(竹村岳 / Gaku Takemura)