2023年のプロ野球も最終盤。オフの大型補強により戦力的に充実しているはずだった今季、ソフトバンクは苦戦を強いられた。7月には12連敗を喫し、連敗が止まってからも“3連勝”の壁に跳ね返され続けた。なかなか波に乗り切れないまま、ロッテ、楽天とのクライマックスシリーズ進出争いを繰り広げている。
苦闘の中、野手ではルーキーの生海外野手や3年目の井上朋也内野手が1軍に昇格。新しい風を吹き込み、投手では森唯斗投手や高橋礼投手が1軍での先発機会を得た。2軍では圧倒していた高橋礼は1軍では結果を残せなかったが、森は粘りの投球でチームを鼓舞してみせた。その一方で、寂しさを感じざる得なかったのは、若手先発投手の台頭がなかったことだ。
ルーキーの松本晴投手が8月27日の楽天戦でプロ初先発の機会を得たものの、4回途中5失点。ホロ苦い初先発だったとはいえ、良い経験になったはず。ただ、本来であれば、他にも“候補生”はいるはずだった。
その1人が育成で入団した木村光投手だ。多彩な変化球と最速150キロの力強い直球を武器に2軍で17試合に登板して2勝4敗、防御率は3.41。ゲームメーク能力を評価され、7月には支配下登録を勝ち取った。フレッシュオールスターにも選出されたが、後半戦は2軍のローテーションから名前が消えた。胸椎の怪我で離脱したのだった。
「今年は怪我しないようにっていうのが1番の目標で、気を付けてはいたんですけど。やっぱり振り返ったら、もうちょっと工夫できたところもあったのかなって思いました。それを来年生かせたら、この怪我も悪くなかったって言えるんじゃないかと思います。1年間通して、ずっと1軍で活躍することを目標にやってきて、支配下に上がって、そのスタートラインまで行けたのは良かったんですけど、1軍に行けなかったのはめちゃめちゃ悔しくて、色々考えることもありました」
胸の内を占めるのは、ここからというタイミングで怪我をしてしまった悔しさ。それでも、もう前を向くしかない。「今は切り替えています。初めはちょっとショックが大きかったですけど、考えすぎてもアカンなと思ったので、そこはいつも通りポジティブで。怪我する前よりレベルアップしていたら、またチャンスを頂けると思う。来年に向けて、1軍でスタートを切れるように」。自身の気持ちをコントロールできるところも木村光の持ち味。新たな目標を掲げて、ひたむきに取り組んでいる。
木村光と同じく、田上奏大投手もチャンスを掴んで欲しかった1人だ。2年連続で2軍の開幕投手を任された田上は開幕からローテを担い、11試合で4勝5敗、防御率は3.55。ところが、7月2日のウエスタン・リーグの広島戦で右肘を痛めて2回途中で降板。そこからリハビリ組となり、9月12日の4軍戦でようやく実戦に復帰した。
「やっぱり怪我してなかったら……とか思うところはあるんですけど、これも経験なので。結構ポジティブなので、なるべくしてこうなったのかなって思っています。そこまで引きずったりはしなかったです。次こうならないようにと受け止めました」。気持ちの面で切り替えは出来ていたが、1軍が苦戦している時に、2軍でアピールすることさえ出来なかったことを悔やむ。
木村光と同様に、今は先を見据えて、日々のトレーニングに励んでいる。「絶対に2軍とかに戻った時にみんなをびっくりさせられるように、と思って頑張ってきている。もっともっといい状態で戻れるようにしたいです」。リハビリ期間中のトレーニングの成果か、肩回りを中心に体つきはより一層ガッチリした。
ただ、前半戦も決して納得いくものではなかった。「全然しっくりは来てなかったです。キャンプの時からずっと悩んで悩んで……。『こんなんじゃない』とか思っちゃって、だんだんおかしくなっていきました。出力も全然出なかったですし『アレ? アレ?』みたいなのが続いて、悩んでいる時期は結構、長かったです」と本音を漏らした。
木村光、田上と1軍で見てみたかった2人だからこそ、夏場の離脱が残念だった。この期待は来季の楽しみに――。前向きに先を見据えて取り組んでいる若き先発投手の台頭に、2024年は期待したい。