わずか1試合の登板で登録抹消となった。ソフトバンクの古川侑利投手は、8月29日に1軍登録をされると、同日のオリックス戦(長崎)で9回のマウンドに上がり、1回を無失点に抑えた。だが、9月1日に登録抹消と、わずか3日間でファームへ戻ることに。古川は前日に監督室に呼ばれ「チームの編成上だから仕方ない、みたいな。お前は悪くないって言われました」と、藤本博史監督から直々に降格の理由を伝えられたという。
「僕も刺されましたね。『マジか』って」と、当然、ショックは大きかった。ただ、すぐに前を向いた。「僕の力ではどうしようもできなかった。そこを考えても前に進まないので。抗えないところは抗えない。考えても答えが出ないことは考える暇すらもったいない。自分のために、今後に生かせるようにするためにも、練習を積んだ方がいいんじゃないか、みたいな感じに考えをシフトしましたね」。監督室を出ると、自分に言い聞かせるように気持ちを切り替えたという。
昇格した8月29日に得た唯一の登板機会では、「マジでデカい。最高でした」と飢えていた1軍のマウンドを噛み締めた。ソフトバンクは3回までに7点をリード。このままの点差であれば、8回、9回はこの日、1軍に昇格したばかりだった尾形崇斗投手と古川が投げると伝えられていた。
心には高鳴るものがあった。「来た来た来た来た」――。「今までやってきたことを出そうっていう考えより、やってきたんだから出せる。大丈夫」と、古川は落ち着いてマウンドに上がり、腕を振った。1安打こそ許したものの、インコースにもどんどん力のある球を投げ込んで健腕ぶりを発揮した。
2軍では7月から10試合連続無失点と好投を続けてきた。8月に入り、2試合で5失点(自責1)したこともあったが、そこで疲労が溜まっていたことを自覚した。「最悪の状態だった」と練習からしっかり見直すことにした。トレーナーの力も借り、セルフケアも入念に行うなど、身体の状態を整えるために最善を尽くした。
古川は“練習の虫”だ。試合日であろうと、ギリギリの時間まで熱心に練習に励む姿が印象的。ただ、「それは悪くもあるんです。うまくやってる人はやってるんで。練習量もうまく調整して。僕、やらないと気が済まないタイプなんです。全部やるのが正義だと思っていたんですけど、そうやって打たれてからは……。気持ちは別に引きずっていない。ただ、全ての球種がコントロールできてないってことは、コンディショニングだなって。じゃあ練習を見直すか、ちょっとトレーナーさんの手を借りようかっていうふうになりました」。自身と向き合ったことでコンディションを取り戻し、昇格前最後の2軍戦では3者連続三振と好投した。
田之上慶三郎2軍投手コーチも、古川の心中を思いやる。「悔しいでしょうね。ゲームで投げて、結果は抑えて帰ってきている。続けていくしかないです。もう1回、呼ばれるようにやるしかない」。ただ、その一方で「落とされないように結果を残すしかない。やっぱりそういう世界。編成上の都合っていっても、落とされないように認めさせるしかないっていう世界ではある」とプロの厳しさ、現実も示す。
田之上コーチも、古川の日々のやり抜く姿を見ている。だからこそ「そういうのって絶対に最後に出るんで。今は悔しいかもしれないですけど、あいつは毎日を完全燃焼してやっている。それは後々、つながってくると思う。やっぱり何くそ、何くそという思いで常に向上心を持ってやっているので、ここ1番っていう時に力を出せる、土壇場で結果を出すと思うので、続けていってくれればいいと思います」と、語る言葉にも熱が込もった。
わずか3日、1試合のみでの登録抹消という悔しさも、いつか輝くための肥やしになる。古川は、これからも自分と向き合い、最高の結果を出すための準備をし続ける。