支配下に「一番近いのは木村光」、あえて投げかけた厳しい言葉の真意とは
首脳陣から直接、尻に火をつけられた。17日に新たに支配下登録されたソフトバンクの木村光投手。同日、PayPayドームで行われた会見では「素直に嬉しい気持ちです」と声を弾ませていた。背番号は68番となり、新たな一歩を踏み出した。支配下昇格を勝ち取るまでの経緯と舞台裏を、小久保裕紀2軍監督が明かした。
木村光はウエスタン・リーグで15試合に登板して1勝4敗、防御率3.14の成績。佛教大から育成ドラフト3巡目でプロ入りすると、2月のキャンプでは宮崎でのB組に抜擢された。見守ってきた小久保監督も「ずっと成績も残していたからね」とうなずく。最速150キロの直球と、豊富な球種を武器に、安定したピッチングスタイルがこのタイミングで戦力として評価された。
選手の獲得や移籍など“動き”がある際には、現場とフロントで意見をすり合わせる。小久保監督は「(話をしたのは)だいぶ前」と明かし「共通認識をしただけ。認識的に『一番近いのは木村ですね』って話をしただけですよ」と続ける。そして、指揮官から語られたのは、あえて木村光の“尻に火をつけた”言葉だった。
7月のアタマの出来事だ。
「本人を呼んで、投手コーチとも話をして。『7月いっぱいで登板があと3回か4回』と。(支配下昇格は)その判断になるから『やらかしたら終わりやで』ってわざと言ったんです。そしたら、ピシッと抑えたので。結果的にゼロで抑えていた」
「『一番支配下に近い』って言わずに1か月を過ごさせるのと、『やらかしたら終わり』って過ごさせるのと、どっちにしても同じ。どう思いますかってコーチに聞いたら『はっきり伝えてあげた方がいいんじゃないですか?』となったので『当たって砕けろ』『倒れる時は前向きや』って言ったんです」
支配下が手に届く位置にいる。それをあえて伝えることで、さらなる奮起を促した。7月の初登板は、5日のウエスタン・リーグの阪神戦(タマスタ筑後)だった。小久保監督が「めちゃくちゃ力みまくってた。捕手の渡邉陸が『光、今日力み倒してますよって言っていた。『1つ策を練ったからそうなるんや、そのつもりで受けてやれ』って言って」と笑いながら振り返る一戦は、6回を投げて無失点だった。
「『やらかしたら支配下はないと思っていけ』って言って。3試合くらい、そこそこ抑えていましたよ。怪我がなかったら(支配下の)ドラフトにもかかっていた投手ですから。素直やし、やろうとしていることも見えてくるからね」
木村光は支配下への昇格を聞いて、小久保監督に電話をしたという。伝えたのは「『ここからがスタート』っていう話をした。ただプロ野球選手になっただけ。プラス、今年の支配下の選手やと下から数えた方が早いって」。危機感を持たせる意味でも、69人になった支配下選手の“69人目”だとハッキリ伝えた。
支配下となって最初の試合は、18日に富山で行われたフレッシュ・オールスターだった。まだ背番号「160」のままのユニホームで、1回を無失点に抑えた。次なるステップはまだまだ始まったばかり。「大卒やし、時間はないですからね」と話す小久保監督の表情は、プロ野球選手としての成功を願っていた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)