【連載・周東佑京】「辰己の肩」の裏側にあった“最悪の想定”…足における絶対的な自信と根拠

ソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】

走塁技術の向上は「いろんな失敗を繰り返した」から…今も忘れられない走塁ミス

 鷹フルがお届けする主力4選手による月イチ連載、周東佑京選手の「7月後編」です。今回のテーマは「走塁」です。足の速さだけにとどまらない、周東選手の走塁技術の真髄に迫りました。7月7日の楽天戦、三塁走者としてタッチアップを試みなかった理由とは―。8月編は14日(月)に掲載予定です。

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 周東佑京内野手が希代のスピードスターである理由は「足が速いから」ではない。準備、技術、判断力を兼ね揃えているからこそ、足でここまでの注目を集めている。6月10日の巨人戦(PayPayドーム)からスタメン出場は遠ざかり、本人も「代走で終わりたくない」とあくまでもレギュラーを目標に日々を過ごしている。その中でも、足における存在感は球界でも抜きん出ている。

 打撃や守備に比べると、走塁の失敗はどうしても目立ってしまう。1つの判断ミスが試合の流れを左右することも多く、ライナーバックや野手の間に落ちそうな打球など、瞬時の判断とセンスが問われる。好走塁と“暴走”は紙一重ではあるが、周東は足の役割を期待される中でも“ボーンヘッド”をすることがない。どんな意識で塁上に立ち、どんな要素が“神走塁”を可能にしているのか。

 2019年3月に支配下登録されると、同年は25盗塁を記録。11月には野球日本代表「侍ジャパン」にも選ばれた。「19年20年、21年もそうですけど。『とりあえず行こう』みたいな。少なからず根拠はあったんですけど。絶対的な根拠がある中で『行こう』じゃなくて、とりあえず行ってみて結果が出ていたみたいな感じでした」と振り返る。今季見せる成長の裏にあるのは、他でもない、自分に対する自信だ。

「余裕が出てきたんだと思います。相手も勝手に意識しているところもあると思うので。周りの選手も『僕がアウトになったら……』って思っているところもあると思う。失敗した時でも色々話をして『お前で行けなかったら無理なんじゃないか』っていうのも言っていただいたりしているので」

 幼少期から足の速さにおいては「負けたことがない」と突出した存在だった。しかし、単純なスピードと走塁のセンスは全くの別物。アマチュア時代は「状況判断とかもそんなにしないで、ヒットを打ったらとりあえずホームまで返るとか、そんな感じでした」という。走塁が磨かれ、はっきりと成長していったのはプロの世界に飛び込んでからだ。

「いろんな失敗を繰り返したことじゃないですか。余裕じゃないですけど、余裕も出てきたのもありますけど、ちょっとずつ自分の中でも自信が出てきたというか。いろんなことを整理しながらできているんじゃないかなって思います」

 2021年、周東は交流戦の前後に走塁において失敗が続いた。中日戦での牽制死や、DeNA戦で一塁から三塁を狙っての憤死……。主導権を相手に渡してしまうミスばかりだった。学んだことは、走塁における“リスクヘッジ”。「こういう状況はこういうことをしないように、とか。最高を思ってやるよりは、何が最悪なのか。一番最悪なことを考えてやった方が整理できているのかなって思います」という。

 心がけるのは、どんな走塁をすれば流れをつかめるのか、ではない。その状況における“最悪”を想定し、逆算してプレーしているから“ボーンヘッド”をしないのだ。6月28日の楽天戦(PayPayドーム)では1死満塁から相手の暴投で三塁から生還。相手のわずかな隙を突いたが「あれも周りを見てから行けた。止まれる状況も自分の中で作りながら行けた」という。そして、それを可能にしている要素こそ、自分への自信そのものだ。

「ちょっと余裕を持ちながら行っているのがあるので。スタートが遅れても、そこはカバーできるだけの脚力があるって自分でも思っているからです。他の人がいいスタートを切れないとセーフになれないところも、ちょっとある程度、遅らせてもセーフになれるっていう。自分の中でも割り切りじゃないですけど。(バッターでいう)めちゃくちゃ飛ばせるから、軽く振ってもスタンドに入るみたいな」

“リスクヘッジ”の意識が表れた試合もあった。7月7日の楽天戦(楽天生命パーク)、1点を追う9回に無死一塁から代走で出場。1死一、三塁となりアルフレド・デスパイネ外野手の打球は中堅に飛んだ。中堅手は2021年、2022年とゴールデングラブ賞に輝く辰己で、本塁アウトとなればゲームセットとなる場面。周東は三塁ベースにリタッチしながらも、タッチアップは試みなかった。

「あれは最悪(の想定)というか、普通に無理だなって思って。あれで行けると言っている方がおかしいと思います」とキッパリ振り返る。球界トップの足を持つ周東が言うのだから、何よりも説得力のある言葉だ。走塁において絶対的な自信を、他の誰でもなく自分自身が持ち始めている。だから周東佑京は、希代のスピードスターなのだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)