広報としての腕が試されている。ソフトバンクは6月の戦いを14勝8敗で終えた。7月2日の西武戦(ベルーナドーム)で今季2度目の5連勝とし、首位の座を奪い返した。チームとして少しずつ波に乗ってくる中で、西田哲朗広報が気にかけている存在がいる。「去年バッティングも良くて、今も出たら打てるとは思うんですけど、今のところはうまいこと噛み合っていなくて……」。周東佑京内野手のことだ。
周東はここまで58試合に出場して打率.185、1本塁打、6打点。16盗塁はリーグ単独トップに立つが、打撃面での“トンネル”からはなかなか抜け出せず、本人も「自分の思い描いているようなことができていない」と言う。インタビューや囲み取材で必ず隣に立ち合う広報。誰よりも選手の言葉を聞いている西田広報が代弁するのは、現状に対する不甲斐なさだという。
「彼はレギュラーとしてできる力もあると思うんです。試合に出ていないことで、代走で活躍もしているんですけど、レギュラーとしてスタメンで出ないといけないと本人は感じています。試合に出られていないっていう思い、責任は感じていると思います。本当は『今、僕は表には出られないです』っていうのも強く感じちゃうタイプなので」
6月28日の楽天戦(PayPayドーム)で周東は“神走塁”でドームを騒然とさせた。同点の8回無死一塁で代走から出場。その後、1死満塁となると三走の周東は暴投で生還。相手のわずかな隙を見逃さなかった好走塁だった。試合後、通算250号本塁打を達成した柳田悠岐外野手とともにお立ち台に立った。代走が選ばれることは異例だが、そこには西田広報なりの気遣いもあった。
「ゲームの勝ちにつながったので出てもらった」。通常なら、ヒーローインタビューに選ばれるほどの活躍をした選手は、その後の囲み取材も広報がセッティングする。実際、柳田は試合後に取材の場に姿を見せた。ただ、この日、周東の囲み取材は、広報からセッティングされることはなかった。「それは本人にも話して。その日の彼に対しては酷だと思ったので、無しにしようかという相談もしました」と、西田広報は舞台裏を明かす。
「誰が見ても、彼の走力しか無理だというのはわかったんですけど、ただ何を話すかと言っても走ることしか話せないわけで……。そこまで長いこと質問を受けても、彼の仕事、自分の仕事を全うして勝利に結び付けただけだった。多くを話させるのは酷だと思ったので、そういう“削り方”をさせてもらいました」
今の周東の心境を思えば、1試合勝利に貢献した嬉しさよりも、まだ貢献できていない不甲斐なさの方が大きいだろう。ヒーローインタビューに出てもらったことは「彼のモチベーションにもつながったら」という気遣いだったが、簡潔に済ませることが何よりも周東のためになるという西田広報なりの配慮だった。「あくまで僕の私見ですけど、相手の気持ちになって考えないと」とお互いの心境が交差したシーンだった。
球界屈指の俊足を誇り、WBCにも日本代表に選出されたことで、その知名度は一気に上がった。しかし、今の立ち位置はチーム内でもまだ確固たる「レギュラー」と呼べるものではない。ファンからの需要が高いからこそ、周東をどう露出させていくのかは広報にとっても腕の見せ所。西田広報も周東をリスペクトしながら「難しいんです」と語る。
「オールスターもいいところ(ファン投票で外野手部門4位)、惜しいところまでいっていたし、それだけWBCの力も大きい。そこで活躍したのもあるし、周東が代走で出てきた時の歓声を見たいって言うファンの人がいる表れだし……。ただ、それで本人も納得していないし、レギュラーでいきたい気持ちもあるし。彼のタイプは難しいと思いますけどね。でも大きな武器ですから」
「(周東の人柄は)優しいですよ。表面はワーワー言っていますけど(笑)。お願いしたら『わかりました』って答えてくれるので。気を遣っているんだと思いますけど、色んな人に。質問にも順応して話してくれる。真面目な話もしたり、マイペースな喋り方もしたり、子ども向けの時はそういう話し方をしてくれるので、(広報としても)バランスの取れる選手です」
応援するファンも、もどかしい思いはあるだろうが、選手の頑張りを隣で見ている西田広報もそれは同じ。誰しもが、そして誰よりも周東本人が納得する日まで、信じて応援していたい。