才能がついに花開こうとしている。ソフトバンクのカーター・スチュワート・ジュニア投手が6月28日の楽天戦(PayPayドーム)で先発登板を果たし、6回1失点と好投した。白星こそつかなかったが「調子は良かったし、いい投球ができたと思う」と振り返る。チームが接戦を制することができたのも、スチュワートの十分すぎるほど内容のある投球のおかげだった。
2018年の米ドラフトで、ブレーブスから1巡目(全体8位)で指名された。その後の身体検査で右手首に異常が見つかったことで入団合意には至らず、2019年5月にホークスと6年契約を結んで入団した。日本球界ではヤクルトの村上や、日本ハムの清宮と“同級生”にあたる。ただ5年目の今季を迎えるまで、1軍では2021年の11試合登板が全てと、なかなか戦力にはなれずにいた。
今季は2試合に先発して11回1/3を投げ、いまだ無失点。最速160キロを誇るなど、ポテンシャルは誰もが認めるところだ。5年目までくすぶっていた理由は、どんなものなのか。スチュワートが入団した2019年、ファームでリハビリ担当コーチだった斎藤学投手コーチは「十分通用する力を持っていた」としつつ、当時を回想する。
「日本の野球に適応させようとしすぎて、全てを狂わせてしまった。それが大きな出遅れの原因かなと思いますね。悪いところを、いいところを伸ばした上で直せたらよかったんですけど。まず日本の野球、日本のフォームにはめようとしすぎて“はめた”ので。もうピッチングじゃなくなってしまった。ただ一生懸命に投げていた時期っていうのがあったと思います」
28日の楽天戦でも2盗塁を許し、投ゴロの処理でも一塁に悪送球をするなどまだまだ課題は多い。「投げているバランスを崩してまで(クイックなどを)覚えたところでっていうのはある」。1軍で投げる今も課題よりも長所に期待しての起用だ。入団時はその課題を改善させようとしたことが、結果的に出遅れる原因になったという。「それを消化しきれないのに、消化しろと言われて、その状態が続いてしまったのかなと思いますね」と続けた。
スチュワート本人にも、もちろん要因はあった。全投手に共通する目的は打者を抑えることであり、チームが勝つこと。「結局興味があったのがスピードとか三振とか、そんな感じの投球しかできなかった。『何キロ出てんだろ』『160キロ出てんだろ』みたいなのをやっていた」と斎藤学コーチ。入団時はスチュワート自身の理解も浅かった。
さらに、同コーチは「プロに入ってくる選手で、プライドを持っていない選手なんて1人もいない」とした上で「それはありました」とプライドの高さのあまり“聞く耳を持たない”一面があったと認める。しかし、その姿勢も少しずつ柔らかくなっているという。スチュワートは昨オフ、プエルトリコで行われたウインターリーグに参加。その舞台裏を、斎藤学コーチが明かす。
「去年の秋、球団の方から教育リーグで『あっちに行ってこい』と言われて、それまでは拒否していたんですよ。『行く必要ない』って。そこに自分で参加していろんな人に接したり、見てきて勉強になったと思う」
日本の11月から12月に行われる中南米などのウインターリーグ。通常ならトレーニングに励む時期に実戦機会を積めるチャンスを、スチュワートは自らの意思で拒否していたという。年が明けた2023年。“武者修行”での成長も期待して、斎藤学コーチは「キャンプも本当は1軍スタートを予定していた」と明かす。結果的に体幹回りを痛めたことでリハビリ組スタートに。今年に関しても、出遅れてしまうことになった。
5年目を迎えて、花開こうとしている大器の才能。誰もが待ち望んだ投球と成長を、今1軍で見せ続けようとしている。斎藤学コーチは「時間がかかったという見方もありますけど、大変じゃないですか。異国の地で対応するのって」という。ここに至るまでに時間がかかったのか、今後描くべき成長曲線はどんなものなのか。正解は誰にもわからない。
「これはいいも悪いも、わからないですね。初めてメジャーでドラフト上位にかかるような選手が日本に来て、育てないといけないといういろんな思いがあったと思うし、みんな悪くしようと思って接していなかったはずなので。その辺はなんとも言えないところがありますけどね」
「どうやったら抑えられるのかっていうのが自分の中で消化ができて。『こうやって投げればいいんだ』『こうやって投げれば自分の球は通用するんだ』っていうものをちょっとずつだけど持ち始めている。だからもっと伸びると思いますよ」
確かに言えるのは、これまで接してきた指導者はスチュワートの成長を願っていたこと。球団はアメリカで埋もれようとしていた若き才能を獲得するという、球界でも初めての試みに挑戦しているということだ。ついに才能を発揮し始めた右腕は、これからどんな投球で“夢”を見せてくれるのか。