確固たるレギュラーまで、あと一歩だ。ソフトバンクは30日の西武戦(ベルーナD)に3-1で勝利した。決勝打を放った は柳町達外野手。3回2死満塁から左前に逆転の2点適時打を放ち「有原さんがいい投球をしていたので、なんとかここで逆転してやろうという思いでした」と表情を緩めた。チームを3連勝に導く活躍も、ここまでの道のりには大きな壁が立ちはだかっていた。
1点を追いかける3回だった。四球と2つの死球で2死満塁となり、この日5番を任された柳町が打席に入った。1ストライクからの2球目、相手先発の松本の直球に詰まりながら左前に運んだ。「チャンスで1本打つというのが僕の役割。今度の試合でもどんどんチャンスで打っていきたいと思います」。初回2死一、二塁では二ゴロに倒れたが、2度目の好機で期待に応えた。
2021年に20試合に出場し、2022年には89安打を放った。「ホップ・ステップ・ジャンプ」なら、今季はジャンプの年にするつもりだった。そこに飛び込んできたニュースは、自分と同じ右投げ左打ちの外野手である近藤健介外野手の加入。高度な技術に、選球眼の良さも売りの球界屈指の好打者。自分が目指したい選手が、競争相手となった。
「近藤加入」の一報を知った時の心境を、こう振り返る。
「そりゃあ、しんどいなと思いましたね……。うわぁ……ってなりましたけど、正直な話」
そして「正直、来ると思っていなかったので、ビックリの方が大きかったです」と続けた。プロの世界である以上、競争は当然のこと。「やっぱりホークスだなってすごく感じました」。どんな高い壁だろうが受け入れるしかなかった。柳町が思い返したのは2022年シーズンが始まる前。もう一度競争に挑むんだという覚悟は、すぐに決まった。
「それこそ去年(2022年)は頑張れましたけど、去年が始まる頃には、今みたいな競争を勝ち抜いていかないといけないっていう気持ちでいました。(上林)誠知さんがいて、クリ(栗原陵矢)さんがいて、外野手争いを勝ち抜いていかないとなって思っていました。自分がやることは変わらないかなとは思いますけど、結果を出さないと出られないので」
今季はここまで50試合に出場して打率.260。近藤健介、柳田悠岐外野手に続いて5番を託されることもある。藤本博史監督はこの日「柳町は競争している選手じゃない。5番、6番打ってるんですよ。そこで競争している選手ではないと思いますよ」と語った。若手の野手の中では一歩、抜きん出ていると明かした。
「守備でセンターのところは厳しいと思うよね。柳田がDHの時は間違いなくレギュラーで出るくらいの内容は出してくれている」と指揮官は続ける。この日も試合途中から、上林誠知外野手と途中交代となった。守備という課題をハッキリと与えつつ、レギュラーという言葉を使って今の柳町の働きを表現する。それだけ、柳町のバットが頼りになる何よりの証だ。
自分だけの人生ではなくなった。昨年12月に一般女性との結婚を公表した。「養っていかないといけない」と背筋を伸ばす。年末年始は元日の前後1週間ほど妻と帰省した。久々に過ごす実家での時間でも、家族は「録画した試合をテレビを見たりしていて、直接的な(声かけ)はなかったですけど。応援してくれているんだなって思いますよね」と、自分の原動力に変えてきた。
久しぶりに実家に顔を出せば、変化はわかるもの。2022年の活躍もあり、自身のグッズは目に見えてわかるくらい増えていた。「福岡じゃなくても試合が見られるように(有料放送に)登録していたりとか。僕がプロに入る前には入っていなかったのに、急に会員になっていてびっくりしました」と家族の支えが、今の最大の力だ。
「『頑張れ』といろんな人が言ってくれることが原動力じゃないかなと思います。打てなくても、ちゃんと味方になってくれる人がいますし、そういう人のためにも、自分はこうやって表に出ている人なので。届けられるじゃないですけど、結果が見られるので、いいところを見せたいなとやっぱり思いますよね」
今季が大卒4年目。ヒーローインタビューでは「チームの勝利になんとか貢献していきたいと思うので、熱い7月ですが皆さんどうか、僕たちに期待して、待っていてください」と、足元だけを見つめてファンに呼びかけた。偉大な先輩たちが通ってきたレギュラーへの道のり。新しい「レギュラー」が今、産声をあげようとしている。