山本由伸攻略の糸口になった“ある球種” データが示す昨季との変化とその原因

ソフトバンク戦に先発したオリックス・山本由伸【写真:荒川祐史】
ソフトバンク戦に先発したオリックス・山本由伸【写真:荒川祐史】

昨季と比べて低下するスプリットとカーブの効果、ホークス打線が打てた理由は…

 難敵を攻略した。ソフトバンクは23日、本拠地PayPayドームで行われたオリックス戦に7-1で快勝した。打線が試合序盤の2回までに山本から7安打を放ち、4点を奪って攻略。その後は攻めあぐねたものの、8回には宇田川から3得点し、リードを広げた。この勝利でオリックスを抜き、63日ぶりに単独首位に返り咲いた。

 1点を先制されて迎えた初回の攻撃。先頭の中村晃外野手が左前安打を放って出塁すると、2死二塁で柳田悠岐外野手が中前適時打を放ってすぐに同点に追いついた。2回には今宮健太内野手の左前安打、甲斐拓也捕手の二塁打で1死二、三塁とし、中村晃、牧原大成内野手が連続適時打。近藤健介外野手も中犠飛で続き、この回一挙3点を加えて勝ち越した。

 相手の山本の4失点は今季ワースト。交流戦では3試合に先発し、3試合ともに8回まで投げて、失ったのはわずか1点だけ。今季ホークスも2試合対戦して2度とも敗れており、この日も苦戦が予想された。その中でなぜ山本を攻略できたのだろうか。

 興味深いデータがある。セイバーメトリクスの指標などで分析を行う株式会社DELTAのデータによると、山本の球種で、今季になって効果が低下しているものがある。球種ごとの得点増減を示す「ピッチバリュー」という指標で、カーブを示す「wCB」とスプリットを示す「wSF」が昨季に比べて低い水準となっているのだ。

 カーブとスプリットといえば、山本の投球でストレートと共に軸になるボールだ。昨季は11.1をマークしていた「wCB」が今季は0.5に、昨季は20.9だった「wSF」は4.2に低下しており、昨季までに比べて有効になっていないことを示している。この日の試合でも 初回の中村晃と栗原陵矢がヒットを打ったのはスプリット、柳田と2回の中村晃のヒットはカーブを打ち返したものだった。

 ただ、これはスプリットとカーブの威力が落ちているわけではない、と球団関係者は指摘する。交流戦で特にカーブは抜群の威力を発揮しており「真っ直ぐが良くないことが影響していたんじゃないか」。山本といえば150キロ台後半の真っ直ぐを軸に、スプリットとカーブを主に組み合わせてくる。その全てに対応することは打者にとって難しいが、投手にとっての生命線である真っ直ぐの不調が、その2球種の効果を下げているというのだ。

 その裏付けとなるのが初回の攻撃だろう。先頭の中村晃は2ボール2ストライクから5球目の153キロをファウルにした。同点適時打を放った柳田は4球目の154キロ、5球目の156キロを、続く栗原は3球目から5球目の真っ直ぐをファウルにして粘り、8球目のフォークを左前に弾き返した。ストレートに対応できていたことが、結果的にスプリット、カーブを捉えられることに繋がったことが見えてくる。

 追い込まれた状況で、他の球種にも意識を払いつつ、真っ直ぐをバットに当てることはプロといえども、決して簡単ではない。どの球種もが一級品である山本であれば、それはなおさらで、だから攻略が至難の業なのだ。ストレートがバットに当てられるから、変化球にも対応できた。実際、この試合の山本のピッチバリューで、ストレートを示す「wFA」は-1.3となっていた。

 この日、山本から3安打を放った中村晃は「いつもよりは状態が悪いのかなという雰囲気を感じた。スピードとかですかね。(インパクトまでに)ちょっと時間があった」と表現する。長谷川勇也打撃コーチも「真っ直ぐにそこまで走りがなかったことで、いつもよりは真っ直ぐに関しての反応をそこまで求めなくてもいいというところで、カーブも素直に打てた」と語っていた。ストレートが本来の状態ではないところから、難敵攻略の糸口を見つけていった。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)