敵地ZOZOマリンスタジアムの室内練習場に甲高い打球音が響いた。全体練習が終わっても、1人、黙々とマシンと向かい合った。音の主はソフトバンクの近藤健介外野手。7日のロッテ戦が雨天中止になると、他の選手が練習場を後にしても「気が済むまで」バットを振り込んだ。
今季FAで加入した近藤だが、ここにきてバッティングで苦しんでいる。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を戦い終えて迎えた開幕直後は打率4割超をマークするなど、安打を量産していた。だが、4月後半に入ると下降線に。ヒットが全く出ていないわけではないが、打率は低下。5、6日のロッテ戦では2試合連続無安打に終わり、打率は.248となった。
チームは27試合を終えて14勝12敗1分けの貯金2で、オリックスを追う2位につける。ただ4月後半に入って5連敗と4連敗があり、波に乗り切れていないのも事実。近藤の不振もそれに無関係ではなく、自身も責任を感じている。
「(ロッテ戦では)結果も出ていないですし、感じも良くなかった。そこの調整という意味で。試合になってみないと分からないですけど、しっかり準備して試合に臨めるようにしたいと思います。ギータさんも調子がいいんで、その前に何とか塁に出たいなと思っている。そうすれば必然的にもっと点も入ると思います」
なんとか9日の日本ハム戦(熊本)に向けて少しでも状態を上げておきたい。そんな思いから“居残り”で打撃練習に励み、感覚を掴めるようにとバットを振った。
そんな近藤の練習を見守っていた1人が長谷川勇也打撃コーチだった。近藤が「師匠」と慕う長谷川コーチは、現在の打撃の状態をどう見ているのか。実は6日に興味深い話をしていた。
「彼の場合は毎日、試行錯誤しているので。ちょっと打ったから良いとか、そんなレベルじゃない。どれだけ打っても自分なりには納得していない感じはする。それがビタッとハマる何かを見つけにいければ、多分気持ちいいと思います、打ってる感触が。その感覚と戦っているみたいな感じですね」
ただヒットが、結果が出ていればいいわけではない。自分の思い描くスイングで、いい感覚の中で、思い描く打球を打つ――。そんな異次元の世界に近藤はいると、長谷川コーチは表現する。
「気持ち悪いながらにヒットが出るのは凄いです。選球眼もそうですし、その中でもまだまだ全然勝負できるところが彼の凄さ。悪いながら投手と勝負できる、そこら辺の引き出しはさすがだなと思います」
日々、試行錯誤を繰り返している近藤。5月4日のオリックス戦では3打数2安打3打点を記録したが、長谷川コーチの言葉を借りれば、それは“引き出し”で打ったに過ぎない。「有意義な時間を過ごせました」と語る、この日の居残り特打が復調に繋がるか。主砲の柳田悠岐外野手が好調な今、そこに繋ぐ近藤の状態が上がってこれば、打線の破壊力は増してくる。