4月27日、本拠地PayPayドームで行われた楽天戦で、長くホークスを支えてきた功労者がその役目を終えた。徳永勝利さん、58歳。ホークスが本拠地を置く前の平和台球場でグラウンドキーパーになってから36年間、現在のPayPayドームやかつてのファーム本拠地である雁ノ巣球場といったグラウンドを整え、選手たちに最高のコンディションでプレーできるように尽力してきた職人だった。
グラウンドキーパーとは奥の深い仕事だ。整えるのは本拠地のグラウンドだけではない。徳永さんは春季キャンプが始まる2月1日を目前にすると、チームよりも早く宮崎に入って準備に取り掛かる。選手たちが怪我をしないように、と数日かけてグラウンドコンディションを整えて、選手たちを迎えられるようにする。
今では、キャンプを行う宮崎・生目の杜運動公園はグラウンドコンディションも良く、ブルペンもしっかりと整備されている。ただ、かつてのキャンプはそうもいかず、苦労の連続だったという。徳永さんはダイエー時代の高知キャンプをこう振り返る。
「高知の東部球場はブルペンがなかったので、サブグラウンドに土を持って行って、高さを出して、毎年ブルペンを作っていました。キャンプが終わったら、それを全部取り除いて、また翌年作って。王会長が監督として来られた時にキャンプを行ったオーストラリアはダイヤモンドが真四角じゃなかった。ブルペンもなかったので、そこでも現地で土を手配してブルペンを作りました」
キャンプ地のグラウンドコンディション、ブルペンを整えるのも徳永さんたちの仕事だった。ブルペンがなければイチから作った。現在のキャンプ地である生目の杜運動公園のブルペンはPayPayドームのマウンドと同じ傾斜、固さになっている。ドームのマウンドが変われば、それに合わせてキャンプ地のブルペンも変える。それを行うのも徳永さんたちキーパーの役目なのだ。
グラウンドをトンボでならすという作業も、見ている以上に奥深いものだ。特に土のグラウンドで野手にとって“敵”となるのが、イレギュラーバウンド。グラウンドの凸凹によって不規則にバウンドが変化することだが、徳永さんに言わせれば「グラウンドの表面が綺麗でもイレギュラーは起こる」のだという。
「表面をトンボでならすとスパイクの跡は消えますけど、その地中で穴が開いているところがある。しっかりと固まってるところと固まっていないところがあるとイレギュラーする。パッと見、綺麗になっていても、その下で荒れていることがあるんです」
グラウンドキーパーはそういった地中の中に隠れている凸凹までを感じ、整えている。内野の要でもある今宮健太内野手もこう語る。「正直、グラウンドの表面は絶対に穴が開くので、そこでのイレギュラーはある。でも、そうじゃない、表面が綺麗にも整備されていても起こるイレギュラーが一番厄介です。球場によってキーパーさんの技術の差ってあると思いますし、プレーしていて感じます」。
選手から改良の要望が多いのは、やはりマウンドだ。見た目ではあまり分からないが、かなりの頻度で土の種類や固さは変わっていっている。昨季と今季でも材質と固さは違う。「選手から多いのは踏み出したところの土が掘れないようにしてくれ、という要望ですね。それを聞いて、会社側とどの資材にしようかっていうのを決めます」。選手がベストパフォーマンスを発揮するための最善の道を徳永さんは模索してきた。
過去にはこんな要望もあったという。「平和台球場の時は、ベテランの選手が自分のときは柔らかくしてくれ、自分のときは固くしてくれとかもありました。相手チームのブルペンはちゃんと作るなとか、平気で言っていましたね。実際にはしませんでしたけど、なんかすごい世界だなとは思いましたね」。昭和の無茶苦茶な要求も、36年間のキーパー人生では懐かしき思い出だ。
「選手が怪我をしないグラウンドを作るのが一番の目的。グラウンドが悪ければ、怪我に繋がるし、選手はグラウンドが良くないと思ったら思い切ってプレーできない。そんな試合を見ても、お客さんも面白くないでしょう」。選手が不安なくプレーできる環境を整え続けてきたからこそ、徳永さんは首脳陣、選手から絶大な信頼を集めてきたのだった。