後輩が先輩を「柊太」と呼ぶ 日米で1勝目を掴んだ千賀と石川の関係「軽い友情ではない」

ソフトバンク・石川柊太【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・石川柊太【写真:藤浦一都】

石川柊太が7回無失点で1勝目…日本時間3日には千賀がメジャー初勝利

“ブラザー”の勝利を刺激に変えて、自分自身も2023年を歩み出した。ソフトバンクの石川柊太投手が4日のオリックス戦(京セラD)で先発して7回無失点で1勝目を挙げた。相手先発の田嶋との投げ合いを制して「自分の中ではバタバタというか、ピタッとハマっている感じではなかったところで、守備の助けがあったので。そこはすごく大きかったです」と感謝した。

 1回、2回と無失点に仕留めた。3回は先頭の茶野に二塁打を許すなど1死三塁のピンチを招いたが、福田を空振り三振。西野を遊直として切り抜けた。昨季は与四球「57」でパ・リーグワーストだった石川だが、この日は無四球。「オープン戦は体に不安があった中で、今日は何も不安なく投げられたのでそれが大きかったです」と打者との勝負に集中して、オリックス打線を封じた。

“ブラザー”が海を渡った。千賀滉大投手が昨オフに海外FA権を行使してメッツに移籍。自主トレをともにして、夢を追い続ける姿を見守ってきた。「いなくなることに関して『俺がいなくなるけど…』みたいな話はしなかったですよ」。昨オフも米国シアトルをはじめ一緒に練習もしただけに、食事をしても「じゃあまた、で終わります」という。別れを惜しむ必要がないのは、離れていても野球で心がつながっているからだ。

「本当にかしこまったり、難しい話はなくて、どうやったらうまくなれるのか。『メジャーリーグでこんな投手がいるよ』『あいつの球えぐくね?』とか、そんな話題で普段から盛り上がっているので。投げてみてどうだったとか。野球少年みたいな感じなので、いなくなるから『俺がいなくなるからホークスを…』みたいな話はなかったですし、自分に言わせれば、そんな軽い友情ではないです」

 他の人の関係や、プレゼントをする人の気持ちなどを否定するつもりは石川には全くない。それでも石川にとっては「軽い友情ではない」というほど、千賀との関係は尊く、安っぽいものではないんだと訴えた。2人にしかない感情がきっとあり、それは誰にも奪われるものではない。

 今もお互いの登板のたびに連絡を取り合い、結果やフォームについて意見を交換する。チームメートではなくなるだけで、2人の関係性は変わらないと強調した。「(千賀は)ストイックであり、純粋なところがいいと思います。それは自分にはない」と前だけを見て突き進む千賀の存在は常に刺激そのもの。メジャーリーグ挑戦までのプロセスも、石川なりに見守ってきた。

「あいつなりに考えること、見えるものがいっぱいあったと思う。向こう(メジャー)にいくとなると、いろんな球団を見るし、いろんな人に会う。こんな世界があるんだよって。向こうでの経験って、なかなか生では聞けないじゃないですか。それが一番聞きたいですね」

 千賀は2日(日本時間3日)に待望のメジャー初勝利を挙げた。長年、夢見てきた舞台での登板に立ち上がりは「腕しか感覚がない」と浮き足立ってしまうほど。日本時間では午前2時40分からの試合で石川は「寝ていました」と笑って明かす。内容はしっかりチェックして「千賀らしいピッチング。初回、危なっかしく抑え、きっちりまとめる。いろんな思いがあったんじゃないですか。緊張もあるでしょうし」と喜んだ。

 石川は人と人の距離感において、日米の違いをこう話す。「日本人らしさとアメリカ人らしさって表現が一番近いと思います。アメリカ人はフレンドリーですし上下関係もないです。そういうのが球団作りや組織作りに直に入っているので。コミュニケーションの取り方も全然違う」。石川なりに千賀から学んだものや、自主トレ中の米国で見た景色から吸収したものがある。人付き合いでも米国の距離感の近さは取り入れているつもりだ。

 石川は「千賀」と呼び、1学年下の千賀は石川を「柊太」と呼ぶという。「人前とか、場合によっては柊太さんがありますけど“柊太”が多いですね。その使い分けはわからないですけど」と笑う。もちろん2人の関係がリスペクトで成り立っているからだ。千賀の存在を、石川は「ブラザー、兄弟みたいな感じです。人前だと敬語で、2人だとタメ口で『最近どう?』って」と表現する。海を越えて、兄弟でつかんだ1勝目だ。

「このまま、全勝するつもりで選手はやっていくので、変わらぬご声援をよろしくお願いしますという感じです」。ヒーローインタビューで宣言した“全勝”は、オフから掲げる本気の目標だ。本気だと認める男同士。海の向こうにいる兄弟に、戦う姿勢を見せ続ける。

(竹村岳 / Gaku Takemura)