「他のポジションの人とは絶対に分かち合えないものがある」
歓喜の輪の少し外で固く抱き合う2人の姿があった。中村悠平捕手(ヤクルト)と甲斐拓也捕手。侍ジャパンの3大会ぶりの世界一が決まると、扇の要としてチームを支えた2人は互いの健闘、苦労、そして喜びを分かち合うように抱き合っていた。
野球日本代表「侍ジャパン」は21日(日本時間22日)、第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝で、アメリカに3-2で勝利。最後はクローザーとして登板した大谷翔平投手と中村のバッテリーがマイク・トラウト外野手を空振り三振に仕留め、2009年の第2回大会以来、3大会ぶりの頂点を手にした。
準決勝、決勝とスタメンマスクを被ったのは中村だった。甲斐は1次ラウンドの中国戦とチェコ戦、準々決勝のイタリア戦でスタメン、そして準決勝のメキシコ戦では途中出場だった。大城卓三捕手(巨人)とともにチームを支えた捕手3人。試合後にお互いを称え、そして労を労い合うように抱き合う2人の姿を見て、甲斐が戦前に語っていた言葉を思い出した。
「キャッチャーにしか分からない部分ってやっぱり多くあると思います。それは他のポジションの人とは絶対に分かち合えない、いろんなものがあると思います」
捕手とは孤独なポジションだ。扇の要として1人、全員に顔を向けてプレーする。“グラウンド上の監督”として勝敗に責任を負い、自らが出すサイン、リードがチームの勝ち負けに直結する。国を背負って戦う国際舞台なら、その肩にのしかかるプレッシャー、責任、苦悩は計り知れないものがある。そうした苦労は、捕手にしか分からないものだという。
国民の期待を一身に背負って戦ったWBCの舞台。そこに向けての準備、苦労はとてつもなかったはずだ。村田善則バッテリーコーチ、中村、そして大城とともに膨大な時間をかけて、相手チームを研究して“チーム捕手”として戦略を立てていたのは想像に難しくない。その瞬間、瞬間で実際にマスクを被るのは1人だけだが、“チーム捕手”として一丸で戦いに臨んだ。
「勝ったときっていうのは僕らはものすごく嬉しいんです。なかなかスポットライトというのは当たらないですけど、終わったあとにロッカーに戻って、ピッチャーの人と『良かったですね』と握手した時とかめちゃくちゃ嬉しい。本当にそのためにやっているっていうのも一つあるのかなと思います」
まさに中村と甲斐の抱き合う姿は、この勝利を喜ぶ姿そのものだったろう。1か月にわたる侍ジャパンでの日々。3大会ぶりの優勝に向けて長い時間を共に過ごし、研究を重ね、そして重圧と戦ってきた同志。互いへの苦労が分かるからこそ、リスペクトがこもった熱い抱擁だった。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)