師は、すぐ近くにいる。教えを胸に、シーズンインを目指しているところだ。ソフトバンクの石川柊太投手は、一歩ずつ調整を進めている。藤本博史監督も「オリックスのアタマに行ってもらうのがベスト」と明かし、4月4日のオリックス戦(京セラ)での先発登板が内定した。
現在、3月に開催されるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向けて侍ジャパンが宮崎市内で合宿を行っている。石川にとっても、自主トレをともにした経験があるダルビッシュ有投手(パドレス)が参加している。師の存在を感じつつも「ダルさんは日本のために戦いに来ているので。変に『ご飯いきましょう!』だなんて言えないです」と恐縮しきりだった。
数年前に、チームメートだった千賀滉大投手(メッツ)の紹介もあってダルビッシュと知り合った。昨年11月も、千賀とともに米国サンディエゴで顔を合わせたといい「野球に真面目に、真摯に向き合った上で、ダルさんに聞くことであの人なりの考えを教えてくれるので」。ダルビッシュの姿は、石川に「本質」を教えてくれたという。
「やっていることが大事ではないと教わりました。あの人自身がやっていることが、じゃあ正解なのか。『正解じゃない』ってあの人も言います。大事なのは野球に向き合う姿勢なので。何をやっているのかを見るんじゃなくて、いろんなことをするというところを学ばせてもらっています。だからあの人もいろんなことをしますから」
トレーニングや食事などに対して、“ダルビッシュがやっているからすごい”という先入観で見てはいけない。大事なのは「誰が」やっているかではなく「何を」やっているかであり、どんな意図を持っているかどうかだ。そして当然、答えはいつだって自分が見つけないといけない。「あの人がしていることは、あの人が今興味のあることであって。まねをすることに意味はなくて、自分がどう考えて何をやるべきか」と理由を続けた。
誰もが憧れるほどの実績を持っているだけに、先輩の背中を追うことは間違いではない。石川は自身の経験を踏まえて「会ったことだけ」で満足してはいけないとも強調する。なぜもっと上を目指し、真っ直ぐに野球と向き合うのか。その理由は、自分だけのものでないといけない。
「『俺の存在をモチベーションにしないでくれ』という話もされました。ダルビッシュさんはすごい人だから、会ったことで自分も野球がうまくなった気になる、というか。知り合いになったから、自分の中で頑張ろうと思うのは違うし、本質じゃないと思います。刺激にはなるんですけどね。モチベーションをどこに置くのかは大切なので」
さらにダルビッシュの姿に学んだのは、データの重要性だ。昨年の11月を振り返りつつ「パドレスのデータ室に入れてもらって。『今メジャーではこうやってデータを使っている』と。『データがあるのに使わないのはファンに対する怠慢だ』と言っていたので、なるほどと思いました」と話した。最善の準備をする上で、数字を活用することも野球に対して真摯に向き合うことなんだと、石川は捉えている。
昨季日本一に輝いたオリックスには、ソフトバンクも10勝15敗と苦しめられた。吉田正尚外野手がメジャーリーグ(レッドソックス)に移籍し、西武からは国内FA権を行使して森友哉捕手が加入した。打線は様変わりしそうだが石川は「左打者に対して、しっかりインコースを投げ込んでいかないといけない。当てにいくくらいの気持ちで投げ込んでいかないと」と強調する。
石川自身、昨季はオリックスに対して1勝2敗、防御率4.18だった。3年ぶりのリーグ制覇のためには、絶対に倒さないといけない相手だ。チームのために、そして他の誰でもない自分自身のために。勝敗を背負って、大事な火曜日のマウンドに立つ。