「野村さんの下で考え方を変えて、39歳で2冠を取った」
どんな時も、どこに居ても、“熱男”は変わらない。9月8日に出場選手登録を抹消され、その後はタマスタ筑後で汗を流している松田宣浩内野手。プロ17年目の大ベテランで、チームに欠かせない元気印だが、今季は打率2割4厘と苦しんだ。ベンチを温める日々が増えても、明るさは変わらず、チームメイトを鼓舞し、ムードを盛り上げてきた。誰にも真似出来ない存在だったからこそ、戦力として欠かせなかった。
だが、シーズン終盤になり、大混戦を戦う中で、首脳陣は苦渋の決断を強いられることになった。藤本博史監督は「シミュレーションをしたら、しょうがないかなっていうところ」とベテランの2軍行きを決断した。ベンチ入り26人の構成を考えた際に当落線上にいたのが、39歳の松田。編成を考えた上で首脳陣は決断せざるを得なかった。
松田は13日から2軍戦での出場を続けている。スタメンで3打席ほど立つ日もあれば、1軍での代打起用を想定して代打で出番に備える日もある。24日のウエスタン・リーグの広島戦では1、2軍通じて今季初本塁打を代打で放った。それ以上に周囲が目を見張るのは、その変わらない姿勢。グラウンドに立っていても、ベンチに居ても、チームを盛り上げる“らしさ”に陰りはない。
関川浩一2軍打撃コーチも松田の姿勢に驚く1人だ。「マッチはずっと明るいよ。後輩たちが見ているから、そういう伝統を伝えていこうという意識もあると思う」と目を細める。他球団で選手、コーチとしてやってきた関川コーチだが、ホークスに入団する以前から、松田のことを“ホークスの象徴”だと感じていたという。現状に下を向くことなく熱い姿を見て、より一層「まだまだやれる力はある」と頷く。
松田の姿に関川コーチはある大打者に姿を重ねる。「山崎武司さんは、野村(克也)さんの下で考え方を変えて、39歳で2冠を取ったんだよね。“無形の力”って言ってるけど、アプローチの仕方についてはマッチにも話してみたよ」。山﨑武司氏と言えば、楽天に移籍した2007年に39歳で本塁打王を獲得。史上3人目となるセパ両リーグで本塁打王になった強打者だ。
関川コーチ曰く、バットの振り幅を小さくする、ストライクゾーンの絞り方、配球の読みなど、今までと異なる考え方を持ってトライすることが、1つキッカケになりうるのではないかという。山﨑氏は確率の高い球種に絞り、全部をどうにかしようとするのではなく、“打つべきボールだけ確実に打つ”という考え方をしていたそうだ。
山崎氏が両リーグ本塁打王を達成したのは、現在の松田と同じ39歳の時だった。山崎氏が全盛期を過ぎても、再びタイトルを獲る姿、年齢と共に苦しい時期も経て進化する姿を見てきた関川コーチは、松田のヒントになり得ることがないかと思案する。「マッチはあの年齢になっても素直に学ぼうとするし、僕たちに質問もしてくる」。松田も常に進化を求めているのだ。
「マッチ、本当に野球が大好きだよね」と、関川コーチが言うように、常にハッスルし、挑戦を続けるベテランには、まだまだやれるところを見せて欲しいもの。多くの人に勇気と希望を与えてくれる熱男の更なる進化を、多くの人が待ち望んでいる。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)